第61話 マリーナ(2)
グスタフの家での会議から三日後、オレ達はマキナとマリーナと一緒に、ベルンブルクの朝市に来ていた。アンカラッドに負けず劣らず、こちらの市場も活気にあふれていた。
「まきなおねえちゃん、きょうはなにをかうの?」
「挽き肉と卵と、あとはサラダに使う野菜です。今夜の夕食は、マリーナの好きなハンバーグですよ」
マキナの言葉にマリーナは満面の笑みを浮かべ、何度も「はんばーぐ」と口ずさんだ。マキナは微笑みながらマリーナと手をつないで、市場の通りを歩いていった。オレ達もそんな彼女らをほほえましく見守りながら、その後にゆっくりとついていった。
初めて出会った時のマキナと、今の彼女との違いに、オレはまだ少し戸惑っている。エマニエルとグスタフいわく、「感情の欠落は、エネルギーの枯渇により、感情を司る機能が停止していたから」らしい。だが、オレはそれだけが理由ではないように思えてならない。
「マリーナ、小さな箱がたくさんありますが、あのお店は何のお店でしょうか?」
「あのおみせはね、おもちゃやさんだよ。あのおもちゃはね、なんとかのはこっておもちゃで、えっと、とにかくすっごくむずかしいの!」
今の二人の姿はまるで本当の姉妹のようだ。思っていたよりもマキナが、この都での生活に順応していることに、オレは驚きを隠せなかった。おそらくは、ああやってマリーナがマキナに色々と教えているのも一因だろう。
マリーナはマキナの手を引っ張って、話題に上がった店の中へと入っていった。それを見たエマニエルは慌てて二人についていった。残されたオレとアンヌは店の外で待つことにした。ちなみに、ジャックとキャロラインは情報収集で不在だ。
「私もアンタと出会ったばかりの頃は、アンタのことが心配で仕方がなかったねえ。結局、重度の死にたがりなアンタを守るために、あえて前衛にして、後ろにいる私達の視界になるべく入るようにして、援護しやすくしたくらいだからねえ」
アンヌはしみじみと懐かしそうにそう語った。確かにそんなこともあったが、あれから短い間に色んなことが起こりすぎて、遠い過去のことのように思える。オレが感傷に浸っていると、アンヌがオレの顔を真っすぐ見上げてきた。
「でも、ブルク・ダム遺跡でのアンタの戦いぶりを見て、もう少しアンタの実力とか、アンタとの約束のことを、信じてみても良いのかな、って思ったのさ。まあ、まだまだ危なっかしくて、ひやひやさせられる時もあるけどさ」
それだけだよ。アンヌは少し照れくさそうに笑って、オレの背中をぽんぽんと叩いた。約束、か。チームの盾になったあの日の誓いを思い出していると、オレは無意識に両手を握り拳にしていた。
マキナとマリーナが思っていたよりも早く店から出てきた。マキナの掌の上には、赤茶色の小さな宝箱があった。さっき店で買ったばかりであろうそれを、マキナは興味深そうに見ている。その目はキラキラと輝いていて、その時オレは初めて、彼女の子供らしい一面を見られた気がした。
次回は6月16日に公開予定です。
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