第6話 初めての戦闘(2)
このまま何もせずに隠れているだけで本当にいいのだろうか。馬車の外の激戦を見ながら、オレは焦燥と葛藤によって全身が痙攣し、息は乱れて荒くなり、脳味噌も焼け焦げそうなほど熱くなっていくのを感じていた。
「ああ、なんていうことだ。こんなことなら、もっと戦闘に使える道具を仕入れておけばよかった!」
道具。そうだ、アイテムだ。この『ヒロイック・オンライン』にも、使用するだけで敵にダメージを与えられるアイテムが存在していて、オレもいくつか持っていたはずだ。今すぐステータスウィンドウからそういった種類のアイテムを取り出して使えば、この不利な形勢を逆転出来るかもしれない。
オレは馬鹿か。怒涛の展開の連続で、ステータスウィンドウの存在をすっかり忘れていた。いや、反省はまた後でいい。今はとにかくアイテムだ。ステータスオープン。オレは頭の中でそう念じて、目の前にステータスウィンドウを出現させた。しかし、出現したステータスウィンドウを見て、オレの顔はみるみるうちに青ざめていった。
アイテムを取り出す。周辺のマップを見る。そして、ログアウトしてゲームを終了する。ステータスウィンドウにあって当たり前の機能の殆どが、無い。あるとすれば、オレの今の名前、それからレベルとスキルの表示だけだった。
しかもそれだけじゃない。それなりに上げていたレベル、それなりに習得していたスキル、それらが全てリセットされていた。これじゃまるで、ゲームを始めたばかりの初心者と同じ、いや、それ以下じゃないか。
そうこうしているうちに戦況は悪化の一途を辿っていった。アンヌの奇襲を恐れているのか、弓ゴブリンは周囲を警戒するようになって矢を放つのをやめたが、護衛は近接武器を持つ三体のゴブリン達の巧みな連携に圧倒され、休む間もなくダメージが大きくなるばかりだった。
どうする。どうすればいい。考えるまでもない、アンヌに言われた通りに隠れていればいい。アンヌが弓ゴブリンを倒した後に、劣勢の護衛を助けに行けば、それで形勢は逆転する。だから、素人のオレは隠れているだけでいい、はずだ。
――本当にそれでいいのか?
――『あの時』のように隠れて、ただ見ているだけで、後悔するようなことになっても、それでもいいのか?
いいわけがない。もう、後悔はしたくない。オレはステータスウィンドウに表示されている未習得のスキルの中から、二つのスキルを選択して習得した。それから行商人に「すみません。これ、借ります!」と言って、彼の短剣を鞘から勝手に抜くと、そのまま戦場に突撃していった。
次回は10月9日に公開予定です。
ツイッターもよろしくお願いします!
https://twitter.com/nakamurayuta26




