第59話 ベルンブルク(5)
「グスタフさん、マキナは今どうなっているんですか。そもそも、どうしてあの子は遺跡の奥深くに封印されていて、遺跡自体も機密になっていたんですか。キャロラインさんが、グスタフさんが全て教えてくれる、って言ってくれたから、私はここにいるんです!」
エマニエルはもう我慢ならないとばかりに、早口でまくしたてた。グスタフは少しの間、髭を撫でながら、肩で息をするエマニエルの目をじっと見つめ返した。
「封印と機密の理由か。長い話になる。何せ旧世界時代からの因縁が関わってくるからな。『保守派』と『改革派』の対立も、その因縁が関係している。――旧世界時代、ドワーフ族が最も栄えた旧ベルンブルクの頃のことだ」
グスタフは再びコーヒーを一口啜った。彼の目は今でもここでもない、どこか遠くを見ていた。場がしんと静まり返った。彼以外の全ての耳目が彼に集まっている。
「旧ベルンブルクの技術力は、現在とは比較にならないほど高く、あらゆる物がほぼ自動的に生産され、空には鉄の船が飛び交っていたという。だが、高度な文明には莫大なエネルギーが必要とされる。旧ベルンブルクは次第に、深刻なエネルギー不足に陥った」
グスタフはここで一旦言葉を切り、苦しそうに顔を歪めた。そして、両手で顔を覆い隠した。その姿はまるで、己の罪に怯え苦しむ罪人のようだった。『あの時』の罪を思い出している時のオレも、もしかしたらこんな感じなのかもしれない。
「旧ベルンブルクのドワーフ達は、愚かな夢を見た。エネルギー問題を完全に解決してくれる、永久機関の誕生という夢を。長年の研究の末に生み出されたそれは、『永遠の炉火』と名付けられた。しかし、それには恐ろしい欠陥があった」
顔を覆い隠している両手を下にずらし、揺れ動く両の瞳だけを露出させた。肌から血の気が失せ、汗がとめどなく流れても、彼は罪の告白を続ける。
「それは生きている人族にしか扱えないのに、『永遠の炉火』がもたらす負荷に人族が耐えられず、死んでしまうという点だ。だが、諦められなかった愚か者共は次に、限りなく人族に近い機械人形を作り出し、彼ら彼女らに自己犠牲を強いたのだ」
グスタフの話をここまで聞いて、ようやくオレは、なぜ彼が断頭台の前の死刑囚みたいになっているのか理解出来た。横目でちらりとエマニエルを見た。彼女もグスタフと同じような表情をしていた。
「エマニエルといったな。お前さんが封印を解除したことに責任を感じる必要はない。全ての罪は俺達、ドワーフ族にある。罪と向き合う時が少し早く来ただけだ」
エマニエルを優しい目で見ながらグスタフがそう言うと、会議をしている部屋の中に誰かが入ってきた。エマニエルが席から立ち上がった。部屋に入ってきたのは、銀髪の少女、マキナだった。
次回は6月2日に公開予定です。
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