第58話 ベルンブルク(4)
翌日、朝早くからオレ達『暁の至宝』はある場所へと向かっていた。そこには今のベルンブルクに大きな影響力を持ち、さらにはオレ達の仲間でもあるという、重要な人物が住んでいる。
「久し振りだな、キャロライン。こんな状況でなけりゃ、良い酒を用意したんだがな。まあ、中に入れや。外は寒いだろう」
そして、ベルンブルク南地区の、古い民家が多い中で、まだ比較的新しい一軒家に着くと、一人の年老いたドワーフの男がオレ達を迎え入れた。シルバーグレーの髪と髭、浅黒い肌に幾重にも刻まれたシワが、生きてきた年月の長さを感じさせる。
騎士団のリーダー格である老齢のドワーフよりも、一目見ただけで高齢だとはっきり分かった。しかし、男の目には研ぎ澄まされた刃物のような光が宿っている。その目の光を見ただけで体が竦み、冷や汗が出そうになる。
「ええ、ありがとう。お久し振りね、グスタフ。半年ぶりかしら。元気そうで何よりだわ。マリーナちゃんも元気にやっているかしら?」
キャロラインの言葉に対してグスタフは、「まあな」と、背中を向けたまま答えた。家の中に入ると、リフォームしたばかりなのか内装が真新しい。調度品も使い古した物はほとんどなく、どれも新品で高価そうだった。
「どうだ、中々良い感じだろう。本当なら今頃は、政治に口出しするのを止めて、開拓者としても第一線から退いて、マリーナの成長を見守りながら、静かな隠居生活を送っていたはずなんだがな」
グスタフのそんな愚痴もそこそこに、一つのテーブルを全員で囲んだ会議が始まった。議題はたくさんある。騎士団の暴挙とその影響、派閥争いの原因の大元、そして、マキナの今とこれから。特にマキナについては、エマニエルでなくとも気になるところだ。
「まずは騎士団がなぜあんなことをしたかだが、それは『保守派』に妨害される前に、『永遠へ至る鍵』の封印解除を阻止しようと、『改革派』の現首長が強行命令を出したからだ。影響は大きいものになる。特に、アンカラッドとの関係悪化は避けられん」
「待って下さい。騎士団が強引な連行をしたのは、機密漏洩の証拠が見つかったからではないんですか?」
「ふむ、混乱するのも無理はない。起きたことを順に並べるとしよう。機密漏洩の発覚が最初で、次に証拠の発見と実行犯の逮捕がほぼ同時に、最後に現首長の強行命令だ。現首長としては、封印を解除される前に遺跡からよそ者を追い出し、遺跡に誰も入れないよう封鎖したかったんだろう」
同族の愚行を嘆きつつも、グスタフはオレの疑問に丁寧に答えた。彼はコーヒーを一口啜って、苦々しい顔になりながらも、さらに話をつけ加える。
「ああ、それとだ。なぜ漏洩が分かったかだが、そもそも、ブルク・ダム遺跡はその存在自体が機密だったからだ。知っていたのは歴代首長と、騎士団の中でも精鋭中の精鋭である、鉄鋼騎士団に所属している者のみ、だった」
次回は5月26日に公開予定です。
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