第57話 ベルンブルク(3)
昼食を終えてからすぐに、キャロラインが刑務所から戻ってきたので、ジャックの部屋に『暁の至宝』のメンバー全員が集まり、今後のことについて話し合うことになった。
「さて、情報をまとめるわ。ベルンブルクは現在、『保守派』と『改革派』、この二つの派閥による争いが激化して、かなり混沌とした状況になっているわ。今回の連行と取り調べが強引で大規模だったのも、この派閥争いと関係があるみたいね」
昨日からまともな休息がとれていないだろうに、それでもキャロラインはメンバー全員が集めた情報を、いとも簡単に分かりやすくまとめてみせた。そう、刑務所から出たあの夜、キャロラインが戻ってくるまで、それぞれ独自に情報を集めようと決めていたのだ。
「旧世界時代の、ドワーフ族が最も栄えていた頃の栄光を追い求める『保守派』と、新世界時代の今に対応した技術開発を推進する『改革派』、か。随分と厄介なことになっているね」
「全くだぜ。ああ、そうだ。ヒロアキ、旧世界時代と新世界時代について、前に教えたことがあると思うけどよ、ちゃんと覚えているよな。それと、新世界暦についてもだ」
アンヌと話していたジャックの言葉に、オレは頷いた。旧世界時代とは、邪神が世界を滅ぼす前の時代のことだ。それに対して、新世界時代とは、再生神が世界を救った後の時代だ。ちなみに、新世界暦は新世界時代になってから使われている暦で、現在は新世界暦一〇一年の十月である。
「よし、それなら良い。やっぱりお前ってさ、物覚え良い方だよな。こんなことならもっと早くお前に、効率的な情報収集のやり方を教えとくんだったぜ」
ジャックが後悔で頭を抱えるのを見て、オレは申し訳ない気持ちになった。『流れ星の子』であるオレは、今のこの世界について知らないことがあまりにも多い。なので、ジャックが時々この世界の様々なことについて、オレに教えてくれているのだ。
ただ、まだまだ知らないことはたくさんある。情報を聞きに行こうと思った場所は全て、仲間達が先に聞きに行ってしまった。今朝、宿の一階にいたのはそういう理由もあったからだ。まさか街角インタビューをするわけにもいくまい。
「過ぎたことを悔やんでもしょうがないわ。他に気を付けないといけないのは、まだ刑務所にいるカネキくん達と、それから、『改革派』の現首長と『保守派』の前首長の動向ね。それらをふまえた上で、私達が次にするのは――」
突然、エマニエルがそっと手を上げた。控えめな手の動きだったが、彼女の目には真剣な光が宿っていた。それを見たキャロラインは話を中断し、エマニエルに優しく微笑みかけて頷いた。エマニエルは姿勢を正して想いを言葉にする。
「話の途中で、ごめんなさい。でも、私、どうしてもマキナのことが心配で仕方がないんです。ブルク・ダム遺跡から連行されてから、あの子の姿を一度も見ていないんです。どこかで酷い目に遭っているかもしれない。そう思うと、どうしても――」
次回は5月19日に公開予定です。
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