第55話 ベルンブルク(1)
ドワーフ鉄鋼騎士団と共に野営地を出発してから半日、ようやく目的地へと辿り着いた。険しい山々に囲まれ、高山特有の冷気に晒されながらも、その都は何十本もの煙突から煙を吐き出し、力強い存在感を示していた。
「着いたぞ。あれこそが我らが故郷、ベルンブルクだ。さあ、さっさと馬車から下りろ。ここからはお前達も歩け。後で取り調べと荷物検査を受けてもらうが、それまでに変な気を起こさないことだ」
武器が全て没収されているので、言われなくとも抵抗する気はない。というか出来ない。なのに、老齢のドワーフはどうしてここまで、いちいちこちらの気に障る言い方をするのだろうか。他の開拓者達も同じような感想を抱いたらしく、睨み付ける者、舌打ちをする者、とにかく空気が悪いことこの上ない。
もっとも、ドワーフ鉄鋼騎士団の面々は、オレ達の感情など意に介することなく、ベルンブルクへと続く坂道を下っていく。当然ながら、オレ達はついていくしかないのだが、何せ理由が理由なので、足取りは非常に重かった。
そのような調子なので結局、全員が都の門をくぐるまで小一時間かかった。都の中では様々な機械兵が、ドワーフ達の生活を支えていた。
店番や荷物の運搬、さらには土木工事など、活動内容は多岐に渡る。これら非戦闘用の機械兵は、全て機械人形と呼ばれている。キャロラインはそう語った。
ベルンブルクの特徴はそれだけではない。都のあらゆる機能の多くが、蒸気の力で動いている点だ。大通りの真ん中を蒸気機関車が走り、工場の煙突が煙を吐く度に振動が伝わる。空の大部分が煙で覆われていてよく見えない。
そして、大通りを三十分ほど歩かされたところで、突然、先頭を歩いていた老齢のドワーフが、一際目立つ建物の前で立ち止まった。石造りの五階建てで窓に鉄格子がある、あまりにも物々しいその建物は、看板に『ベルンブルク中央刑務所』とあった。
「全員、止まれ。お前達はこの建物の中で、一人一人個別で取り調べを受けてもらう。荷物検査も並行して行う。さっきも言ったが、変な気を起こすなよ」
老齢のドワーフが高圧的にそう言い放つと、オレ達は次々と刑務所の中へと押し込められた。反抗的な態度をとった者もいたが、すぐにドワーフの騎士達に鎮圧された。それを見た他の者達はおとなしく従った。
取り調べは滞りなく進んだ。しかも、一人あたり平均で十分くらいしかかかっていない。不思議に思ったものの、早めに解放されたのでほっと胸をなでおろした。ただ、キャロラインだけまだ刑務所の中にいる。
さきほど反抗的な態度をとった者を含めた数人だけ、取り調べの時間が明らかに長いのだ。このことに対して言い知れぬ不安を覚えたが、今は考えても仕方がないので、とにかくまだ泊まれる宿を探すことにした。時刻はすでに、深夜になっていた。
次回は5月5日に公開予定です。
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