第54話 証拠
馬車に乗せられてブルク・ダム遺跡を出発してから、すでに丸一日が経過していた。機密漏洩に関与していた可能性があるからと、ブルク・ダム遺跡にいた開拓者は全員、ドワーフの戦士達に連行されていた。
「我々はあくまで与えられた任務を遂行しているにすぎない。恨むなら、黙秘を続ける機密漏洩の実行犯を恨むことだな」
老齢のドワーフがオレ達を馬車に乗せる前に言ったことを、早朝、野営地のたき火を消しながらオレは思い出していた。実行犯はどんな奴なのか。なぜ黙秘し続けているのか。どうしてオレ達を連行するのか。疑問と怒りと、それから少しの好奇心が、昨日からオレの頭の中で渦巻いている。
目的地であるドワーフの都まであと半日くらいの距離らしいが、今までも、そしてこれから先も険しい山道が続いている。しかし、ドワーフの戦士達は疲れている様子を見せていない。驚くべき頑強さだ。
「おい、ヒロアキ。今すぐ例の場所に集合だ。情報が集まったから共有する。ドワーフ共に見つかるなよ。面倒なことになるからな」
ジャックは空っぽな馬車の影に完全に溶け込みながら、オレだけに聞こえるようにこっそりとそう口にした。その後、言われた通りにドワーフ達の目を盗みながら、何とか例の場所へと向かった。もっとも、隠密行動が苦手なオレが苦労したのは言うまでもない。
「時間がないから要点だけ言うぞ。奴ら、ドワーフ鉄鋼騎士団がオレ達を連行する理由は、機密漏洩の実行犯が消し損なった証拠に、何人かの開拓者に機密を漏らした、みたいなことが書かれていたかららしい」
馬車と馬車の影が重なって死角になりやすい暗がりの中で、ジャックは少し早口でひそひそとそう言った。事情は分かったが、それだけの理由で連行は強引過ぎるだろ。アンヌも同じことを考えたらしく、さっそくつっこみを入れた。
「ちょっと待ちなさいよ。本当にそれだけなのかい。こんなことしていたら、人間とドワーフの関係が悪化するのは目に見えているじゃないかさ!」
アンヌの声が少し大きかったので、エマニエルが慌てて「アンヌさん、声、大きいです!」と、アンヌの耳元でささやいた。幸いにもドワーフ達には気付かれなかったようで、全員がほっと胸をなでおろした後、ジャックが顔をしかめて話を続けた。
「一応、アンカラッドを拠点にしている開拓者だ。って、ところまではその後の調査でつきとめたみてえだな。で、あの時、ブルク・ダム遺跡にいた開拓者のほとんどが、アンカラッドを拠点にしている奴らだった。オレ達が連行されているのは、それが理由らしい」
ジャックは小さくため息をついた。アンヌは怒りで顔が真っ赤になり、エマニエルはそれを見て真っ青になりながら、アンヌを必死になだめていた。オレはというと、天を見上げて現実逃避した。――ああ、今日も良い天気になりそうだ。
次回は4月28日に公開予定です。
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