第53話 ドワーフの戦士達
暗黒空間の底に唯一存在している通路を、上を目指してジャックを先頭に走っていた。途中で何度も曲がりくねっていたが、一度たりとも迷ったり立ち止まったりはしなかった。
「ちゃんとついてこいよな。迷子になっても助ける余裕なんてねえぞ。そら、次は右だ。その次は十字路を左。遅れるなよ。アイツに追いつかれる――!」
ジャックは息を切らしながら必死にそう言った。彼の言う通り、背後からカネキの足音が全く遠ざかることなく、むしろ徐々に迫りつつあった。
オレだけここに残って通路の狭さを利用し、少しでも奴を足止めするべきだろうか。そんな風に考え始めていると、通路の階段の先から強い光が差し込んできた。
眩しさに目を細めながら階段を登り切ると、『ガーディアン』と戦った場所まで戻ってきていた。そして、オレとエマニエルはそこで見た光景に絶句した。攻略チームの開拓者のほとんどが、床が崩落する前よりも怪我が酷くなっていたからだ。
それだけではない。カネキの部下が全員、縄で拘束されていて、その周りを金属鎧の戦士達が、厳しい目つきで囲んでいた。背は低いが体は分厚く、豊かな髭をたくわえている。戦士達は皆、ドワーフ族だった。
「ねえ、ドワーフの正規軍がどうしてここにいるのかしら。貴方達の使命は都の防衛でしょう。ここにいて都は大丈夫かしら?」
「なめるなよ小娘。いついかなる時でも、都の守りが揺らぐことはない。我々がここにいるのは、軍事機密の漏洩が関係しているからだ」
唯一真っ白な髭をたくわえた老齢のドワーフと、腕に包帯をまいたキャロラインが、何やら二人で話し込んでいた。軍事機密という言葉が聞こえてきたが、それは言っても良いものなのか。キャロラインも同じことを考えていたらしく、老齢のドワーフにそのことを指摘した。
「お前達がこの遺跡にいる時点で、機密のままにしておく理由はない。首長から予めそう指示を受けている。――この遺跡は、知られるべきではなかった」
最後は吐き捨てるようにそう言うと、老齢のドワーフはカネキの部下達を強引に立ち上がらせた。そして、この時になってようやくカネキがオレ達に追いついたが、目の前の状況を見て顔を真っ青にしながら、ドワーフの戦士達に無抵抗なまま拘束された。
カネキのそんな反応を見たオレは驚いた。てっきり、金と口先で何とかしようとすると思っていたからだ。おそらくは、それだけ奴にとっても予想外の展開だったのだろう。結局、ビジネスとは何だったのか。なんとなくオレは、逃げる時に一緒に連れてきたマキナの顔を見てみた。
だが、彼女は相変わらず無表情のままだった。なぜか老齢のドワーフも彼女のことを見ていたが、少ししてから、ドワーフの戦士達への指示出しに戻った。指示内容によると、残念ながらしばらくの間、アンカラッドへ帰れそうになかった。
次回は4月21日に公開予定です。
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