第51話 永遠へ至る鍵
エマニエルが床に刻まれた元素魔法語を発見してから、一体どれだけの時間が経過しただろうか。丸い筒のような形の暗黒空間にいると、時間の感覚が分からなくなってくる。上から光が差し込んでくるのは、他の人間がまだ残っているからだろう。
しかし、どういうことだろうか、助けがくる気配は全くない。オレが不安と焦りを覚え始めた頃、突然、エマニエルが大声で「やった、解けたあ!」と言った。謎めいた元素魔法語による封印が、ようやく解除出来たようだ。彼女の足元が、光を放つ。
エマニエルはその場からゆっくりと後ろに下がった。すると、床に光の円が描かれ、光の円に囲まれた部分が円盤のようにグルグルと回転しながら、オレの頭よりも上の高さまで浮いて止まった。そして、円盤のようになった床の下には、細長い金属製の箱があった。
箱の形と大きさはどう見てもまさに棺そのものだった。何もしていないのに、棺の蓋が勝手に動き出し、それを見ていたエマニエルはオレの背後に隠れた。オレも鞘から剣を抜き、二人で白い煙が充満した棺の中を凝視した。すると、棺の中に誰かがいた。
銀髪の少女だ。明らかにエマニエルよりも幼い。体は触れたら折れてしまいそうなほどに細く、肌は病的なまでに青白い。彼女を初めて目にした時は、てっきり死んでいるものと思ったが、彼女がゆっくりと静かに起き上がったのを見て違うと分かった。
銀髪の少女が目を開けてこちらの方を見てきた。血のような赤色の瞳には感情の光が宿っておらず、ただ虚ろな闇だけが存在していた。そんな彼女だが、ぼうっとした表情で警戒するオレ達、特にオレの方を見つめていた。
少女の考えが読めず緊張していると、フラフラと歩いてこちらの方に近付いてきた。銀色の長い髪が一歩歩くたびにゆらゆらと揺れる。やがて彼女はオレ達のすぐ目の前で立ち止まり、しばしの沈黙の後、開口一番にこんなことを口にした。
「お腹が空きました。エネルギーの補給、すなわち食事を希望します」
透き通るような繊細で美しい声。しかし、抑揚の乏しい淡々とした話し方は、オレ達をただひたすら困惑させた。「ええと。こういうのならあるけど、食べる?」と、エマニエルがおずおずと携帯食を差し出すと、少女はちょっとの間だけそれを不思議そうに見た後、すぐに手に取って口の中に入れた。
夢中になって携帯食を食べる姿は、同じ年頃の女の子とあまり変わらない。しかし、だからこそ疑問に思うのだ。なぜ少女は、地下工場の奥の奥であるこの場所で、厳重に封印されていたのか。オレは思い切ってこのことについて聞いてみた。すると、意外なほどあっさりと少女は答えた。
「私が危険な存在だからです。私はこの世に唯一残された、永遠へ至る鍵。私の名前はマキナ。貴方がたは、私の封印を解くべきではなかった」
次回は4月7日に公開予定です。
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