第5話 初めての戦闘(1)
馬車の外から金属が激しくぶつかり合う音、護衛の怒声、さらには人間のものとは思えない耳障りな叫び声が聞こえてくる中、オレは妙な違和感の正体を探っていた。
「ひええ、助けて下さい。乗車料金はお返しします。後でお礼も差し上げます。だから助けて下さい!」
「ちょっと、アンタも少しは戦いなさいよ。その腰の短剣は何のためにあるのよ!」
「これはただの護身用なんです。私は転生してから今まで一度も戦ったことがないんです。だから助けて下さい!」
だが、アンヌと行商人が言い争う声を聞いて、一旦オレは違和感の正体を探るのをやめ、馬車の外が今どうなっているのかを確認した。もちろん、矢が飛んでこないか警戒しながらだ。
外では三体の人型の魔物を相手に、護衛が死にもの狂いで剣を振るっていた。そこから北の森林の方に目を向けると、同じ人型の魔物がさらにもう一体、茂みに隠れながら弓を構えていた。
「おい、狙われているぞ!」
オレの警告を聞いた護衛はすぐさま反応し、飛んできた矢を紙一重で避け、三体の魔物から少し距離を取った。三体の魔物は護衛の動きを見るなり一か所に集まって武器を構え直し、弓を構えていたもう一体も完全に茂みの中に隠れた後、顔だけ出してこちらの出方を見るようになった。
ここでようやくオレは合計四体の魔物を落ち着いて観察することが出来た。黄緑色の肌に尖った耳、それに黄ばんだ鋭い歯、濁った黄色の瞳。間違いない。あれはゲームの序盤に出てくる雑魚モンスターのゴブリンだ。
街道で護衛と対峙する三体のゴブリンはそれぞれ剣、槍、斧を手にしている上、革製の丈夫そうな鎧まで身に着けている。茂みに隠れている方のゴブリンも、弓以外の装備は分からないものの、弓の腕前は中々のものだ。
「ヒロアキ、アンタはここにいな。私はあの弓を持っている奴を倒す。そうすれば、護衛の人も今よりは戦いやすくなって、その分だけ少しは私達が有利になるはず。もちろん、危険なのは分かっているわ。でも誰かがやらないといけない。だから、アンタはここでじっとしているんだよ。いいね?」
アンヌは床に下ろした荷物から短剣を取り出し、オレの目を見ながら優しく微笑みつつそう言うと、馬車の外へ飛び出した。反対する時間さえくれなかった。
彼女は馬車から外へ飛び出した後、近くの茂みに素早く身を隠した。もちろん、ゴブリン達もそれに気付いて邪魔をしようとしたが、その前に護衛に邪魔をされた。それをきっかけにゴブリン達が護衛に対して総攻撃を始めた。護衛もゴブリン達の総攻撃を正面から迎え撃つつもりのようだ。
このままでいいのだろうか。このまま戦いが終わるまで、何もせずに隠れているだけで本当にいいのだろうか。自分は何も出来ない無力な存在なのだろうか。馬車の外の激しい攻防を目にしながら、オレはそう自問自答していた。
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