第44話 射手座
オレが再び意識を取り戻した時でも、攻略チームと機械兵の戦いはまだ続いていた。戦況は攻略チームが優勢になっていた。オレも加勢しようと、急いで立ち上がろうとしたところで、また意識を失いかけて、その場に座り込んでしまった。
「動いちゃダメです。さっきまでたくさん血が出ていたんですから。戦いの方はもう大丈夫ですから、とにかくじっとしていて下さい。私は他の人の手当てに行きますけど、絶対に動いちゃダメですよ!」
エマニエルはオレにそう釘を刺すと、別の怪我人のところへ走っていった。わざわざ言われなくても、今のオレには立つことすらままならない。なので、目の前の開拓者達の戦い方を、しっかりと記憶に刻むことにした。
戦いはそれから十分もしない内に、攻略チームの勝利に終わった。しかし、ここ数日の度重なる戦いによって、開拓者達の肉体と精神は限界に近かった。武器や防具も消耗が激しく、今にも壊れてしまいそうな物もあった。
「おやおや皆さん、どうやらお困りのご様子。貴方がたは実に運が良い。偶然にも我々が今ここに来たのは、まさに再生神様の導きによるものでしょう。ですので、皆さんが必要とされる物資を、今だけ、超特別価格でご提供します!」
誰かが近くでわざとらしく大きな声でそう言った。声がした方を見るとそこには、すらりと背の高い若い男が立っていた。スーツ姿で色白のその男は、整った顔に親切そうな笑みを貼り付けていた。オレとの距離は十メートルくらいしかないのに、直前まで存在に気付けなかった。
「あいかわらず思ってもいないことを口にするのね。その特別価格とやらも、相場の何倍になるか、じっくり教えてくれないかしら。『星の円卓』、『射手座』のカネキくん?」
カネキという男の突然の登場に、オレも他の開拓者達も動揺を隠し切れない中、キャロラインだけが穏やかな笑みを浮かべ、落ち着いた態度で堂々と、カネキという男と相対した。緊迫した空気が、辺りを支配し始めた。
「ふう、やめておきましょう。今ここで貴方と争っても、余計な損失しか生みませんから。そうですねえ、相場の三割増しでいかがでしょうか。申し訳ありませんが輸送コストの問題で、これ以上は値下げすることは出来ません」
カネキは笑顔を貼り付けたままそう言って、右手をそっと上げると、マスクで顔の上半分を隠した人間が四人、彼の背後の暗闇から音もなく出てきた。マスク姿の四人はそれぞれ武器、食料、それに医薬品などが入った木箱を抱えていた。
結局、攻略チームのほとんどの者はカネキ達の商品を、渋々ながら三割増しの値段で次々と買っていった。中にはカネキ達を忌々しそうに睨む者もいたが、それに対してカネキ達が動じる様子は全くなかった。
次回は2月18日に公開予定です。
ツイッターもよろしくお願いします!
https://twitter.com/nakamurayuta26




