第42話 ブルク・ダム遺跡(5)
夕方遅くになった頃、全ての戦いが終了し、キャロラインの作戦は成功に終わった。潰し合いの戦いの末、機械兵は一体も残らず破壊された。魔物も大半は死んで、生き残りも漁夫の利狙いの開拓者によって倒された。
そして、ささやかなながら祝勝会が開かれ、オレは今、自分のチームで作られたカレーライスを食べていた。複雑なスパイスの香りと肉の脂の旨みが、オレのスプーンの動きを止められなくしていた。今朝までとは違い、今夜はどこも明るい雰囲気だ。
しかし、オレは浮かれてばかりではいられなかった。誘導作戦の中でオレがした無謀な選択は、エマニエルを守るためだったとはいえ、決して手放しで称賛されて良いものではなかったからだ。キャロラインから、後でそのことについて聞きたいことがある、とも言われている。
「ヒロアキくん、楽しんでいるかしら。私が作ったカレーライス、お気に召したようで嬉しいわ。ねえ、聞きたいことがあるって私が言ったの、覚えていてくれているかしら。そのことなんだけど、今からでも良いかしら?」
キャロラインが穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、オレの目をじっと静かに見つめた。彼女の瞳には、全てを包み込むような優しさと、強い決意の光が宿っていた。オレは断れるはずもなく、黙ったまま笑みを返して頷いた。
急いでカレーライスを食べ終えたオレは、キャロラインと共に野営場所を少し離れ、誰もいない静かな場所で二人きりになった。何を聞かれるかはある程度察しがついていたので、正直なところかなり気が重かった。
「うん、ここなら大丈夫そうね。ヒロアキくん、今なら私以外に聞かれる心配はない。だから、昼間の作戦中、エマニエルちゃんが転んだ時、どうしてあんな無謀な行動をとったのか、私に教えてくれないかしら?」
キャロラインの問いにオレは言葉が詰まり、脳裏に様々な考えがよぎった。度重なる無謀な行動の原動力は、父親から受け継いだ責任感の強さか、それとも、苦楽を共にした仲間達を守りたいという気持ちからか。
いや、違う。一番の理由はおそらくそれらではない。一度たりとも忘れたことはない、忘れられるはずもない、『あの時』の後悔がオレにそうさせているのだろう。ようするに、オレは『あの時』の自分の行動を、今もなお許せていないのだ。
しかし、そのことを話すことは出来ない。『あの時』とは、転生前の出来事だからだ。転生前の記憶を失っていることにしているオレが、『あの時』のことについて話すのは不自然だ。
オレは逃げるように夜空を見上げた。視線の先には巨大な鈍色の満月が鎮座していた。異様な存在感を放つそれは、昼になろうと夜になろうと沈むことはない。まるで、『あの時』の後悔が、常にオレを監視しようとしているかのようだった。
次回は2月4日に公開予定です。
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