第38話 ブルク・ダム遺跡(1)
転生してから三か月が過ぎて、オレのレベルは10になっていた。転生前なら、もうそろそろ初心者卒業となっている頃だ。転生した今も、段々と少しずつではあるが、新人扱いされることが減ってきていた。そんなオレは現在、馬車に乗ってアンカラッドから北北西の方向へ進んでいた。
「ほら、エマニエルちゃん。そろそろ起きなさい。もうすぐ例の遺跡に着くわ。みんな、忘れ物がないように気を付けてね。さあ、遺跡の宝物は早い者勝ちよ。現地に着いたら、頑張って遺跡を攻略していくわよ。ヒロアキくんは初めての長旅になったけれど、体の調子は大丈夫かしら?」
キャロラインは寝ているエマニエルを起こしながら、みんなに対してそう呼びかけた。オレは体をゆっくりとほぐしてから立ち上がった。エマニエルもあくびをしながらふらふらと起き上がった。アンヌとジャックはすでに馬車の外に出ていて、早くこっちに来いと急かしていた。
オレは馬車の外に出ると、小高い丘の上から、標高の低い山々に囲まれた遺跡を眺めた。ブルク・ダム遺跡。ギルドにそう名付けられたその遺跡は、アンカラッドとほぼ同じ規模の遺跡群だった。ギルドの先行調査隊によると、遺跡はドワーフ族と深い関係があるとのことだった。
「体の調子は大丈夫です。それより、邪神の呪いによって滅亡した町の一つ、でしたよね。調査隊の報告書には、ドワーフ族が製造した機械兵が、今でも遺跡を守っている。って書いてあったらしいですけど、そいつらはどれくらい強いんですか?」
オレは二週間前に発見された新たな遺跡について、転生前のゲーム知識を何度思い出しても、全くもって分からないのだ。つまり、ブルク・ダム遺跡は転生前、まだ未公開のダンジョンだった、ということになる。ドワーフ族の機械兵も初めて戦うことになる敵だ。
「少なくとも、私達の手に負えないほど強い敵が出る可能性は低いと思うわ。そうでなければ、そもそもギルドが新たな遺跡についての情報を、こんなにも早く公開することはなかった。まずはベテランの開拓者を派遣して、危険性の高い敵を排除することを優先したでしょうね」
キャロラインはオレの質問にそう答えながら、愛用の武器であるクロスボウと短剣を装備した。その姿を見てオレは、アンヌに戦い方を教えたのはキャロラインであると、以前、どこかでそのようなことを聞いたのをふと思い出した。いつ、どこで、誰から聞いたのだったか。
オレがそうやって記憶を掘り返そうとしていると、遺跡がある方向から魔物の群れが近付いてきた。魔物の群れはオレ達の存在に気が付くと、雄叫びを上げて突撃してきた。その時、妙に張り切った様子で戦闘準備をするアンヌを見て、彼女から一度だけ自慢げに聞かされたのだと、ようやく思い出した。
次回は12月24日に公開予定です。
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