第37話 約束
秋の気配はますます深まり、太陽の光が優しく穏やかになりつつある頃、オレはアンヌと共に『開拓者の灯火』に来ていた。理由はただ一つ、オレの装備の新調だ。目指すべきオレの戦闘スタイルは、もうはっきりと見えていた。
「本当に良いのかい、ヒロアキ。そりゃあさ、私達は大助かりだけど、代わりにアンタがその分だけ危険になるわけだから。いや、あの提案をした私が、今さらこんなことを言うのが、そもそもおかしなことだっていうのは分かってる。分かってるんだけどさ」
アンヌが少し俯きがちにそう言ったのを聞いて、オレは笑顔を浮かべて彼女の背中をポンポンと優しく叩いた。そして、オレは迷いなく店員が待つカウンターまで行き、予約していた品を受け取りに来たことを伝えた。さっきの一部始終を目にしていた店員は、少し引き締まった表情で店の奥へと走った。
「自分を犠牲にする行動を、自分でどうにか出来ないのなら、良い防具で自分の命を守るしかない。アンヌの考えは間違っていないと思ったから、オレはこの道を選んだんだ。大丈夫だよ。オレは一人じゃない。みんながいる。みんなで戦えば、きっと大丈夫。だからさ、そんな顔しないでくれよ」
オレは後ろを振り返らず、アンヌにそう言った。彼女は黙っているが、どんな表情をしているか容易に想像出来た。それからしばらくの間、彼女との間に沈黙が漂った。しかし、店員が新調した装備を持ってきた時、ピリッとした緊張が体を走った。
「そういうところ、本当にそっくりだよ。私のお父さんに。私のお父さんもアンタみたいな、いざって時は平気で自分を犠牲にするような人だった。そして、私と村を守るために魔物の群れと戦って、死んだ。一緒に戦っていた仲間達をも守ろうとして、その分だけ無理をして死んだ」
巨大ブルースライムに不意打ちされて死にかけた時、彼女があそこまで取り乱したのは、そんな過去があったからなのか。密かな疑問だったことに対する答えに、オレが納得している間に、気が付いたら店員は姿を消していた。空気を読んでくれたのだろう。
心の中で店員に感謝し、カウンターに残された真新しい装備を手に取った。手に伝わってくる重さが、これから背負うことになる責任の重さを感じさせた。鍛え、磨き上げられた金属製の盾が反射する光は、これからオレが歩む道をより鮮明に見えるように照らした。
「死なないよ。チームの盾として、チームのみんなを守らないといけないからさ。だから、死ぬわけにはいかない。約束する、最後まで絶対に死なない。みんなを守り切って、オレも生き残ってみせる。オレも、手に入れたいものがあるから」
次回は12月10日に公開予定です。
ツイッターもよろしくお願いします!
https://twitter.com/nakamurayuta26




