第35話 秋の訪れ
オレは息を切らしながら、後ろから追いかけてくるゴブリンの群れから、追いつかれまいと必死になって逃げていた。あの黒いドレスの少女と初めて出会った森の中での出来事だった。この森の中でも秋の訪れが、僅かながらではあるが感じられるものの、生憎とそれを楽しんでいる余裕はない。
あともう少しだ。かつて、別のゴブリンの群れに不意打ちをした場所まで、後ろの奴らを誘導してしまえさえすれば、茂みの中に隠れている仲間達と共に、後ろの奴らを包囲することが出来る。そうなれば、オレ達の勝ちは揺るぎないものとなる。
そして、オレを追いかけてきたゴブリンの群れが、まんまと誘導されて死地に足を踏み入れたその瞬間、茂みの中に隠れていた仲間たちが一斉に飛び出し、次々とゴブリン達に襲いかかった。オレもそれを目にして仲間達の後に続こうと、全力疾走の疲れで震える己の両足を鼓舞し、鞘から剣を抜いた。
まずは誰から倒すべきか。こちらの奴らに対する奇襲からの包囲によって、ゴブリンの群れは激しく動揺していた。だが、その中で一体だけ、冷静かつ慎重に包囲から抜け出して、弓矢で敵を狙おうとしている奴がいた。あいつだ。あいつにしよう。
そうと決めたらオレは迷わずに、その冷静な弓ゴブリンAとの距離を一息に詰め、そのまま流れるような動作で『疾風突き』を発動した。弓ゴブリンAは右から迫るオレの動きに素早く反応し、『疾風突き』をバックステップで回避した。
そして、突きを外して無防備になってしまった、かのように見えるであろうオレに対して、至近距離から確実に射殺すことにしたようだ。しかし、とあるスキルを発動したオレは、腰を落として片足を軸に、時計回りに一回転しながら剣を横薙ぎに振るった。
矢を放とうとしていた弓ゴブリンAはこれに反応出来ず、腹部を深く切り裂かれて大量の血を流しながら、仰向けに倒れて絶命した。放たれようとしていた矢は、明後日の方向に飛んで木の幹に突き刺さった。
弓ゴブリンAの死を確認したオレは、包囲されながらも弓ゴブリンBを中心に、まだ必死の抵抗を続けているゴブリン達の方を見た。包囲される前は十体近くいたゴブリン達も四体まで減っていた。そして、弓ゴブリンBがエマニエルの魔法によって倒された時、ゴブリン達による必死の抵抗が終わった。
戦闘が終了してすぐにオレ達は死体漁りを始めた。オレとアンヌ、それからジャックとエマニエルは、手際よくゴブリン達の死体を漁っていく。アレックスと『鋼の戦士』のチームメンバーである四人の若者は、周囲の警戒に専念してくれていた。オレが転生してから、二か月近くの月日が過ぎていた。
次回は11月19日に公開予定です。
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