第34話 貴方だけの至宝
「こんのお馬鹿。いくらなんでもワガママが過ぎるよ。悪かったわね、ヒロアキ。この子には後で、キッチリとこの前のスイーツ代を支払わせるから。本の買い過ぎで今月は厳しいから、って言われても勘弁はしてあげないから。自業自得だよ。諦めるんだね!」
アンヌの厳しい説教の前にエマニエルはあえなく撃沈した。オレは苦笑しながらその光景を見ていた。キャロラインからチーム加入の条件を出されてから、今日でちょうど二週間になる。今日、ここギルドの食堂で彼女と待ち合わせをしており、チーム加入が認められるかどうかが決まるのだ。
「はあい、こんにちは。頑張っているみたいね、ヒロアキくん。町のみんなが貴方のことを噂するようになってきているわ。開拓者絡みの噂は広まるのが早いのだけれど、評判は上々よ。真面目な働き者だ、ってね」
キャロラインが今回は優雅にドアベルを鳴らしながらドアを開け、ギルドの中に入ってすぐにオレ達の姿を見つけると、足早に同じテーブル席に座って上機嫌にそう言った。その言葉を聞いて、オレは気持ちが少し舞い上がりそうになったが、飼い主にじゃれつく子犬のようなアンヌを目にした途端、すぐに冷静になれた。
「さて、貴方の『暁の至宝』への加入についてだけれど。私が出した条件をちゃんと満たした上で、さらに町の住民の評判も上々となれば、私達が貴方のチーム加入を拒否する理由はないわ。『暁の至宝』へようこそ、ヒロアキくん。私達は貴方のチーム加入を心から歓迎するわ」
キャロラインから微笑みながらそう言われたのと同時に、オレは心から安堵した。もちろん喜びもあったが、それ以上に安堵感の方が大きかった。この世界で孤独になる可能性がこれでかなり低くなったからだ。
「『二週間の間、依頼を受ける時はチームの誰かとペアを組むこと』、『最低でも週に五日は依頼を受けること』、『積極的に町の人々と交流を深めること』。キャロラインさんが何でこの条件を出したのか、この二週間で分かったような気がします」
チームメンバーと信頼関係を築き、依頼を達成することで実績を積み、交流を深めることで町の住民から信用を得る。どれもこれも少し考えればすぐに分かるような、社会で生きていく上で当たり前のことばかりだ。
そんなことも分からなくなるほど、オレは視野狭窄に陥っていた。だが、キャロラインから与えられた条件を満たすために、ただひたすらに奔走したこの二週間の間に、ようやく思い出すことが出来た。
「あら、そうなの。なら良かったわ。初めて会った時の貴方は、明らかに冷静さを欠いていたから。私達『暁の至宝』の目的は、世界各地の遺跡を攻略し、その先にある全ての価値観を一新するような、まさに二つとない至宝を見つけることよ。――貴方も、貴方だけの至宝を見つけられると良いわね」
次回は11月5日に公開予定です。
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