第32話 元素魔法
翌日、オレはエマニエルと共に、アンカラッド唯一の図書館に来ていた。エマニエルによると、この図書館は約一か月前に完成したばかりだという。図書館の建築は約一年前にギルドの指示によって始まったそうで、約一年前まで港の近くにあった別の図書館が、敵対種族の攻撃によって焼失したのがきっかけなのだとか。
「わあ、すごい本の数。ワクワクするなあ。前の図書館と同じくらいの広さなのに、本の数と種類が全然違う。ええと、ヒロアキさんが読みたいアンカラッド周辺の、地理と歴史の本はどこかな。あっ、この本はずっと前から読みたかった本だ。えっ、この本もあるんだ。やったあ!」
ゴホン。白髪の老婆の司書が咳払いを一つして、本棚の前で本を手に、興奮し過ぎて大声を出したエマニエルを、横目でじっと睨んだ。厳しい視線に気が付いたエマニエルは、恥ずかしさのあまり一瞬で赤くなった顔を、手に持っている本で隠しながら、その場にへなへなと座り込んでしまった。
「え、ええと。そうだ、エマニエル。君が今持っているその本は、アンカラッド周辺の遺跡についてまとめた本みたいだけど、もしかして君は、遺跡が好きなのかな。遺跡の話って何だか面白そうだし、遺跡のこと、オレにも少し教えてくれないか?」
オレは落ち込んでしまったエマニエルを励まそうと、彼女が持っている本のタイトルから、何とか話題を作って話しかけてみた。すると、彼女は顔を隠している本を少しだけ下げて、何かとても素晴らしいものを見つけたような、キラキラと輝く目でオレを見てきた。
「本当に、本当に遺跡に興味がおありなんですか。でしたら、魔法についても教えますね。世界各地に存在する遺跡は、魔法と深い関わりがありますから。まず魔法とは、世界を形作る力を自由に操れる、神様から与えられた特別な言語のことなんですよ」
エマニエルは少し元気を取り戻し、本棚から新たに別の本を一冊取り出した。その本はどうやら、魔法と魔法の歴史について、初歩的な部分を分かりやすくまとめたもののようだ。彼女はその本を開いてとあるページをオレに見せた。
そのページには、魔法の力の源となるもの、実際に魔法を発動するために必要な手順、それらが簡潔に書かれていた。さらに詳しいことは後のページに記述されているのだろうが、本の厚さから考えて、全てを理解するには時間がかかりそうだ。
「もっと厳密に説明すると、この世界の全ては六つの元素によって構成されています。火と水、風と土、そして光と闇です。神様から与えられた特別な言語、元素魔法語はその六つの元素を自在に操り、自らが望んだ現象を引き起こすことが可能なのです。これは元素魔法の基本的な知識の一つです」
次回は10月8日に公開予定です。
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