第30話 暁の至宝
報酬金を受け取った後、オレは昨日と同じ宿に再び泊まることにした。昨日は急遽、アンヌの紹介で、彼女が所属している開拓者チームと開拓者ギルドで会う予定になった。
どうやら依頼から帰ってきてすぐに、チームリーダーからの手紙が届いたようで、明日の朝までには北の開拓前線からアンカラッドに帰還するらしい。
そして翌朝、オレとアンヌ、それからジャックとエマニエルの四人で、チームリーダーより一足先にギルドで待っていると、誰かが大きな音を立てて、正面玄関のドアを開けた。ドアベルが乱暴なドアの開け方に対して、悲鳴にも抗議の声にも聞こえる音を出したが、その誰かは全く気にすることなく、オレ達がいるところまで歩いてきた。
その誰かは金髪の女性だった。年齢は見た目だけなら三十歳くらいに見えるが、彼女のあまりにも落ち着いた、それでいて堂々とした態度を見ていると、それよりもさらに上なように思えてならなかった。
「リーダー、おかえりなさい。北の開拓前線は今どんな状況なんですか。あ、その前に報告しないといけないことがあって、実はこの人が、ヒロアキって名前なんですけど、期待のルーキーで、私達のチームに加入したいって言ってくれているんです。えっと、それから」
「アンヌちゃんは相変わらず元気ねえ。ただいま、みんな。それと、貴方ははじめまして、ね。私の名前はキャロライン。開拓者チーム『暁の至宝』のチームリーダーよ。よろしくね、ヒロアキくん。さてさて、それじゃあ早速、ちょっとおしゃべりでもしましょう。レベッカちゃん、紅茶を一つお願い」
キャロラインは無邪気にじゃれついてくるアンヌに対して、まるで子犬を相手にするかのように優しく接しながら、オレ達と同じテーブル席にリラックスした表情で座った。
対照的にオレは、彼女の落ち着きぶりを見てむしろ緊張してしまい、彼女のことを注意深く観察してしまった。彼女は一体どんな人物なのだろうか。
まずはボブカットの金髪だが、よく手入れがされていてとても美しい。真珠のような白い肌には、シミもなければシワもない。結論を出すと、彼女はかなりの美人だ。それも、オレが今まで見てきた女性の中でも、間違いなく五本指に入ると断言出来る。
いや待てよ。今のオレの行動はセクハラではなかろうか。そうと気付いた時にはもう遅く、アンヌとエマニエルから冷ややかな目で見られていた。ジャックは顔を下に向け、肩を震わせながら笑いを堪えていた。
だが、キャロラインだけは、「あらあら、随分と熱い視線を送ってくれるのね」とだけ言って、逆にオレをからかう余裕さえ見せた。
「キャロラインさん、オレを貴方のチームに、『暁の至宝』に加入させて下さい。オレは知りたいんです。今、自分の身に何が起こっているのか。そして、この世界に何が起こっているのか。この目でちゃんと見ておきたい。いや、見ておかないといけないんです。お願いします!」
初対面からいきなり情けない、みっともない姿を見せてしまったことを自覚しつつ、それでも恥を忍びながら頭を下げてそう言った。すると、キャロラインは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、余裕のある態度を変えることは全くなかった。
そして、レベッカが運んできた紅茶を一口飲んだ後、オレを安心させようとするかのような優しい笑みを浮かべ、チーム加入の条件を口にした。
次回は9月10日に公開予定です。
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