第27話 蛮族の戦士
戦況はとにかく悪化するばかりだった。アレックスはどうやら剣ゴブリンDと槍ゴブリンCの相手をするので精一杯のようだ。若い二人の助っ人で後輩の方の男は、口から血を吐きながら苦しそうに呼吸する先輩を、どうにかして治療しようとしているようだが、残念ながら先輩は助かりそうにはない。
ジャックは厄介な弓ゴブリンを始末しようとしたが、斧ゴブリンが新手の敵としていきなり姿を現し、斧を振り回してジャックを牽制した。アンヌはクロスボウでジャックを援護しようとしたが、弓ゴブリンが矢を放って邪魔してくるので、ジャックは孤立無援の状態に陥ってしまった。
オレはまだエマニエルから魔法による治療を受けている途中で、戦況が悪化していくのをただ見ていることしか出来なかった。そして、ただでさえ悪い流れを、より決定的なものにしようとするかのように、そいつは大地を揺らしながらゆっくりと、少しの余裕さえ見せながら姿を現した。
緑色の肌と小さく尖った耳、醜く潰れている鼻、大きい口には鋭い牙がある。そして、人間より大柄で横幅と厚みがあるその肉体は、オレ達に対して並外れた威圧感を感じさせていた。初心者殺しの代名詞にして、中堅クラスへの壁、蛮族の戦士オークだった。
悪い状況はオークの出現により、もはや最悪なものとなった。オークは姿を現してすぐに後輩を剣で斬り殺すと、そのままの勢いでアレックスに向かって突進した。この時になってようやくエマニエルによる治療が終わり、オレはアレックスと協力してオークを倒そうとした。
だが、その前にアレックスから「ヒロアキ、オークの相手は私一人だけでする。君はゴブリン共の相手をしてくれ!」と、必死の形相でそう指示されたので、剣ゴブリンDと槍ゴブリンCがいる方に目を向けると、そいつらはエマニエルに近付いて攻撃しようとしていた。
「させるか。エマニエル、援護してくれ!」
オレはエマニエルへの攻撃を阻止しようとして、剣ゴブリンDに対して『疾風突き』を発動したが、あっさりと弾き返されてしまった。そうこうしているうちに戦いは終わりを迎えようとしていた。オレ達の敗北と死という形で。
斧ゴブリンの斧がジャックの太股を浅く切り裂き、弓ゴブリンの矢がアンヌの脇腹に突き刺さった。オークと一対一で戦っているアレックスも、すでに全身ズタボロの状態で、今にも殺されてしまいそうだった。
エマニエルも槍ゴブリンCの攻撃を回避するのに必死で、魔法を使う余裕は全くなさそうだ。オレも目の前の剣ゴブリンDを倒す決定打がない。昨日の夜、貴重なスキルポイントを消費して習得した新スキルも、この状況を打開出来るものではなかった。
オレ達はもうここで死ぬしかない運命なのだろうか。剣ゴブリンD相手に劣勢を強いられ、そんな絶望的な考えがオレの頭の中を支配しようとした、まさにその時、この状況を一変させる出来事が起こった。
次回は7月30日に公開予定です。
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