第23話 明日の準備
『開拓者の灯火』での買い物が終わった後、オレは開拓者ギルドに一番近い安宿の一室で、買った物の確認と整理、それから明日の仕事の準備をしていた。結局、オレが買えた物は中古の革製の鎧と、いくつかの日用品、それと着替えの服だけだった。
明日の仕事の準備でやることもそう多くはない。長距離移動に備えてしっかり寝ることと、戦いに備えて新たなスキルを習得しておくことくらいだ。ステータスオープン。目の前にステータスウィンドウを出現させると、オレは自分の今のレベルと習得済みのスキル、それからまだ未習得のスキルを確認した。
スキルには五つの系統があり、それぞれが一つの森のように独立している。そして、初歩的なスキルから強力なスキルを習得していけばいくほど、まるで、成長すればするほど枝分かれしていく一本の木のように、多種多様なスキルが習得可能になっていくのだ。
そう、この多種多様なスキルこそが、『ヒロイック・オンライン』を、『誰もが何者かになれるVRMMO』にしているのだ。このシステムは他の多くのゲームにも導入されていて、スキルツリーと呼ばれている。
現在、オレが習得しているスキルは二つ、『剣の心得』と『疾風突き』だ。『剣の心得』は、現実の世界で剣術を学んだことがないプレイヤーでも、剣を装備した状態ならプログラムのサポートによって、まるで剣の達人のように戦えるようになれるスキルだ。
もう一つの『疾風突き』は、文字通り疾風のように早い突き技で、プレイヤーが習得可能なスキルの中では、最も初歩的な攻撃スキルの一つだ。こちらのスキルもプログラムによるサポートを受けられる。
スキルの系統としては『剣の心得』が『汎用』で、『疾風突き』が『攻撃』となっている。実は前々から、ステータスウィンドウのスキルツリーを見るたびに、オレはとある一つの疑問を抱いていた。それは、スキルを発動する時に起動する、プレイヤーをサポートするプログラムについてだ。
この世界はもうゲームではなく現実なのに、どうしてまだゲームのプログラムが作用しているのだろうか。もしかしたらこのことは、この世界の真実に近付くための、大きなヒントなのかもしれない。そう思うと、胸が高鳴ってくるのを感じるのだ。真実、オレが追い求めようとしているものだ。
まあ、それはともかくとしてだ。今は明日の準備の方が大事だ。レベルアップによって得たスキルポイントを消費し、新たなスキルを一つ習得した。明日の仕事はゴブリンの小規模な群れの討伐なので、この新たなスキルはかなり役に立つことだろう。
窓から外を見てみると、無数の星々が夜空の深い暗闇の中で瞬いていた。随分と遅い時間になってしまった。そろそろ寝ないとな。オレはベッドの上で横になり、そっと目を閉じた。これからの不安はたくさんあるのに、不思議なことに今夜は、よく寝れそうだった。
次回は5月28日に公開予定です。
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