第21話 砂のような味
アンヌが満面の作り笑顔を浮かべながら、二度目の自己紹介を強引に締めくくった。引っ張られた耳をまだ痛そうに撫でているジャックを見て、オレはこれから先のことに少し不安を感じたが、今更考えてもどうしようもないので覚悟を決めることにした。
「あとはリーダーが認めてくれさえすれば、本当に久し振りに新人が入ってきてくれるよ。しかも、今度の新人は転生してすぐに、ゴブリンを倒すような人だからね。今度こそ長続きしてくれる――はずだよ!」
上機嫌なアンヌの言葉を聞いて、オレの不安は大きくなったものの、今ここで「やっぱり加入はしません」と言える勇気は、オレの心の中には存在しなかった。
すると、アンヌはオレが不安を感じていることに気が付いたのだろう。「大丈夫。癖の強い人はいても、悪い人はいないから!」と、彼女は慌ててオレにそう言ったが、不安が消えることはなかった。
そうこうしているうちに、オレ達が注文していた料理をレベッカが運んできたので、話の続きは料理を食べ終えてからすることにした。
そして、オレ達が料理を食べようとした、その時だった。近くの席で突然、誰かが暴れ始めたのだ。驚いて誰かが暴れている席の方を見ると、泥酔しているスキンヘッドの男が、空っぽのコップを片手に持ちながら、呂律が回っていない状態で何かを喚いていた。
「そこの君、もうこれ以上暴れるんじゃない。他の人達にも迷惑だろう。まだ暴れ続けるつもりなら、私は容赦しないぞ。言っておくが、これは脅しではない。本気だ」
オレ達を含む周囲の人間がどうしようが迷っていると、金髪を七三分けにした背の高い男が、背後からスキンヘッドの男の腕を掴んだ。
あの背の高い男には見覚えがある。そうだ、一昨日のゴブリン達との戦いで、途中までたった一人だけで戦ってくれていた、あの護衛だ。名前は、アレックスだったはずだ。
「黙れ、俺は主役なんだぞ。誰が何と言おうと、この世界の歴史に名を残す、偉大な英雄なんだ。お前ら脇役とは違うんだ。お前らはとにかく俺を崇めていればいいんだ。なのに、生意気なんだよ。引き立て役の――NPCのくせに!」
オレはスキンヘッドの男の言葉に対して、まるでハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。この世界に転生した元プレイヤーの存在。オレ以外にもいるであろうという予感は、正直に言うと前々からあった。
しかし、実際に目の前にその存在が現れた時、オレは激しく動揺して、アレックスがまだ暴れようとした男を鎮圧しても、冷静になれそうにはなかった。
その後、オレ達はスキンヘッドの男が外に追い出されるのを見てから、レベッカがすでに運んできていた料理を食べ始めることにした。
食事中、オレはこっそり周囲を観察した。アンヌも、ジャックとエマニエルも、それ以外の人間も、スキンヘッドの男の言葉を、誰も全く気にしていないようだった。だが、オレが今食べている料理は、砂のような味しかしなかった。
次回は5月7日に公開予定です。
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