第2話 全てが始まった日(2)
荘厳なBGMと共に大扉の奥から微笑みを浮かべながら姿を現した今日の主役は、金髪碧眼で真珠のような美しい白い肌の若い女性だった。腰の高さまで伸ばしている金髪が潮風になびく度に、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
「なあ、あのお方はもしかして再生神様じゃないか!?」
「あの美しいお姿と慈愛に満ちた微笑み。ああそうだ、間違いない。再生神様だ!」
NPCらしき二人の男がわざとらしくそう叫ぶと、群衆も沈黙を破って一斉に騒ぎ出した。さすがに熱狂し過ぎていて危険だと判断したのか、運営が操作しているであろう騎士達は、せめて大聖堂の前にいる群衆だけでも落ち着かせようとしているようだが、全くといっていいほど効果はなかった。
しかし、NPCから再生神様と呼ばれた若い女性が、微笑みを浮かべたまま群衆に向かって一度だけゆっくりと手を振ると、さっきまで騒がしかったのが噓のようにしんと静まり返った。
「この町に住む愛しき民よ。そして、外の世界にて新たな可能性を探し求める勇敢な開拓者よ。汝らの研鑽と献身の日々によって、この町はかつて邪神がもたらした災厄より、ここまで蘇ることが出来た。この町だけではなく、世界の全てが在りし日の繁栄を取り戻す日もそう遠くないと私は信じている」
そういえばそんな設定があったな。と、オレは忘れかけていた『ヒロイック・オンライン』の世界観について、せっかくなので再生神様のありがたい演説を聞きながら思い出すことにした。
かつて、異世界の邪神がこの世界に強力な呪いをかけた。呪いは海と大地を不毛の砂漠に変え、全ての生物を死に至らしめた。世界が絶望に覆われ、邪神に支配されようとしていたその時、天空より再生神が降臨した――。
再生神は邪神を戦いの末に封印し、その次に海と大地を呪いから解き放ち、さらには彷徨える魂に転生の祝福を授けた。その後、再生神は転生した人間達と共に、この世界がかつての繁栄を取り戻せるように、現在も力を合わせて世界の再生を進めている――。
オレの曖昧な記憶と再生神様の演説の内容からして、確かこんな感じの世界観だった、と思う。よくよく考えてみればすごいNPCを使ってきたなと、今更ながら少しワクワクしてきた。
「さて。ではそろそろ、今回の開拓祭で私が出す催し事を発表しよう。だが、その前に――」
群衆が再び騒がしくなってきた。しかし、先ほどのような興奮による熱狂ではなく、不安と困惑によるざわめきだった。何故なら、再生神の全てを包み込むような慈愛に満ちた温かい微笑みが、自分以外の存在全てを見下すような冷たい笑みへと変わっていたからだ。
「お前達には一人残らず死んでもらおう――!」
唐突な死刑宣告に対してその場の誰もが理解が追い付かず、パニック状態に陥り始めたその時、さらなる異変が起きた。空が、地面が、ヒビ割れ崩れ落ち、虚無の暗黒の中でさらに細かく分解され、消滅していく。それは人間も例外じゃなかった。
オレは咄嗟にアンヌをまだ崩れ落ちそうにない場所に突き飛ばした後、他の人間と同様に虚無の暗黒へと落ちていった。まだ崩れ落ちていない世界の欠片が遠のくほど、人間が一人、また一人と暗黒の中で姿を消していく。
そして、まだ崩落せずに残っていた大聖堂に、二本の光の柱が出現して天を貫く光景を目にしながら、オレの意識はブラックアウトした。
次回は8月28日に公開予定です。
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