第18話 決意
誰かが誰かの名前を呼ぶ声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。意識が浮上するにつれ、さらに感覚が一つ一つ甦ってくる。濡れた石の感触、肌を焼かれるほどの暑さ、そして、誰かの優しい手の温もり。
声に導かれるかのようにオレはゆっくりと目を開けた。すると、赤毛の三つ編みとそばかすが印象的な少女が、泣きながらオレの顔を見下ろしていた。
「ヒロアキ、ヒロアキ。良かった、やっと目を覚ましてくれたんだね。このお馬鹿、何であんな無茶なことをしたんだい。目を覚まさないアンタを見て、皆がどれだけ心配したか分かっているのかい!?」
彼女はどうしてこんなに泣いているのだろう。そもそも、ヒロアキとは誰のことだろうか。今のこの状況を理解しようと、頭痛と吐き気でまだぼんやりとしている頭を必死に働かせた。すると、霧が晴れていくかのように、今までの記憶が少しずつ甦ってきた。
そうだ、ヒロアキとは今のオレの名前で、ここに来たのはブルースライムの討伐依頼を受けたからだった。それから何が起こってこの状況になったのかも思い出した。巨大なブルースライムによって水路の中へと引きずり込まれ、そのまま冷たい水の中で意識を失ったのだ。そして、同時に他にも分かったことがあった。
折れた槍を手にしたままアンヌの後ろで泣いている少女と、巨大ブルースライムの死骸を水路の中から引きずり出している、もう一人の協力者である開拓者の少年。そして、まだ泣きながら怒っているアンヌ。記憶が甦ってきている中で、三人の服がずぶ濡れになっているのを目にして、ようやくオレは今のこの状況を全て理解した。
今はもう存在しないはずの父の実家にいた夢、あれは走馬灯だったということだ。つまり、オレは溺死しそうになっていたのだ。――そんなオレをアンヌは、いや、アンヌ達は必死になって助けてくれたのだ。
その後、アンヌ達の奮闘でどうにか依頼は達成した。だが、オレの心に達成感はなく、ただアンヌ達に対する申し訳なさしかなかった。
――翌朝。体が若返った影響もあるのだろうか、オレ自身も驚くほどの早さで昨日のダメージが回復した。なので、アンヌからもっと安静にするように言われつつも、オレは起床してからすぐに外出の準備をして、ある決意を胸に秘めたまま開拓者ギルドへと向かった。
東の空が白んできたばかりの港町の目抜き通りを、ある時は潮風を切り裂きながら、別の時には潮風に背中を押されながら、オレは全力で駆けていった。そして、開拓者ギルドに着いたその瞬間、オレは開口一番にこう言った。
「レベッカさん、ギルドマスターに会わせて下さい。オレ、決めました。開拓者名簿に登録して、正式な開拓者になります――!」
次回は4月2日に公開予定です。
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