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第17話 ブルースライム討伐依頼(2)

 あまりにも突然の出来事だったので、水路から水飛沫を上げて姿を現したそいつを、オレ達はただ呆然と見上げることしか出来なかった。そいつは、水色で半透明なゼリー状の生物、ブルースライムだった。


 しかし、さっきまで討伐していた、サッカーボールくらいの大きさのものとは違って、間違いなくその十倍以上の大きさはあるだろう。そして、そいつはよりにもよって、水路に背を向けていたせいで反応が遅れ、無防備になっていた少女に襲いかかろうとしていた。


 気が付けば頭で考えるよりも先に体が動いていた。混乱と恐怖で棒立ちになっていた少女を、オレは少しでも安全そうな場所に突き飛ばした。その直後、オレは巨大なブルースライムによって水路の中へと引きずり込まれ、そのまま冷たい水の中で意識を失った。


――懐かしい声が聞こえた。懐かしい匂いがした。オレがそっと目を開けるとそこは、今はもう存在しない父の実家だった。かなりの年季が入った木造で二階建ての父の実家は、電車が一日に数本しか停まらないような山奥の田舎にあった。


「おい、聞こえてないのか。もし暇ならおじいちゃんの農作業を手伝ってくれ。さっき、おじいちゃんがまた腰が痛くなったって言ってな、人手が足りなくなったんだよ。すまんが今すぐ来てくれ」


 父の声だ。父が家の外からオレを呼んでいる。急いで起き上がると、オレが今いるこの部屋が、かつて祖父がオレの遊び相手をする時によく使っていた、祖母の仏壇がある和室であることに気が付いた。同時に、懐かしい声が父の声で、懐かしい匂いが畳と線香の匂いであることにもようやく気が付いた。


 その後、オレは外に出て農作業を手伝うために玄関へ向かって歩いている間、父のことを思い出していた。オレが大学を卒業した二年後に病気でこの世を去ってしまったが、警察官として治安を守るために一日も休むことなく、ただひたすらに信念を持って真面目に働いた父は、オレにとって今もなお心から尊敬出来る存在だ。


 父の名前を今の自分の名前にしたのも、この世界で生きていくための、自分の心の道標になってくれそうな気がしたからだ。


――いや、待てよ。この世界で、だと。そこまで思い出したところでオレはようやくあることに気が付いた。父の実家はもうどこにも存在しない過去に失われたものだ。それなのにどうしてオレは今、過去に失われたものである父の実家にいるのだろうか。明らかに異常な状況の中にいることを理解してからは、今いるこの場所に懐かしさではなく恐怖を感じるようになった。


 すると、玄関へ向かっている途中に廊下で立ち止まったオレの背後から、父とは別の懐かしい声で誰かがオレに話しかけてきた。母の声だ。驚いて後ろを振り向くとそこには、三年前に父と同じ病気で亡くなった母が、まだ元気だった頃の姿で立っていた。


「ヒロアキよ。私達と同じ、異なる世界から来た者よ。目覚めなさい」


 母はそう言うと全身を光り輝かせ、金髪碧眼で真珠のような美しい白い肌の若い女性、再生神へと姿を変えた。それを見たオレは、再生神に聞きたいことがたくさんあるので色々と質問しようとして――そこで再び意識を失った。


次回は3月19日に公開予定です。

ツイッターもよろしくお願いします!

https://twitter.com/nakamurayuta26


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― 新着の感想 ―
ここで一気に引き込まれました。まるで、私自身が昔の懐かしい、今は失われた実家に行ってしまったかのようで。
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