第143話 Cの証言
アーサーとオードリー、そしてバルバラ。三者による戦いが今にも始まるのかと、周囲が戦々恐々とする中、さらなる混乱の元が入り込んできた。今度は神殿を守っているはずのエルフの兵士達だった。
「アーサー殿、急ぎお伝えしなければならないことが――!」
「――おのれ、無能な奴らめ。管理の一つもろくに出来ないのか。ちっ、仕方がない。おい、ただちに引き上げるぞ。戻り次第、処罰をあたえてくれる――!」
エルフ兵士の一人がアーサーに耳打ちで何かを伝えると、アーサーは青筋を立てて唸り、そして声を荒げて親衛隊を率いて引き上げた。しかも、親衛隊員の遺体を置き去りにしてだ。曲がりなりにも仲間だった者達に、何という仕打ちだろう。
荒涼とした静寂の中に残されたのは、生々しい戦いの跡、さらなる不吉な予感、理不尽に対する憤り、それだけだった。誰もがそれぞれの感情を胸にしばし沈黙していると、一つの変化が起きた。
死んでいると思われていた親衛隊員の一人が、呻き声を出して意識を取り戻したのだ。息を吹き返した親衛隊員Cに、その場にいる全員が驚いて騒然としていると、キャロラインだけがCに駆け寄っていった。
「バルバラ、手当ての準備を。例のあれも出して。どうせ持ってきているんでしょう」
「もちろんさ。しかし、ここでそいつに使うとはね。まあ良いんだけど。ほれ、こいつでさっさと起きな」
バルバラは懐から薬瓶を取り出して、中身を全てCの顔にかけた。すると、Cは意識が完全に回復すると同時に、がばっと勢いよく起き上がり、あたふたと周囲を見回した。
もちろんだが、そんなことをしても味方が見つかるはずもなく、Cはすぐに置き去りにされたのだと理解して、顔を青くしてがっくりうなだれた。そこにキャロラインが目前に座って、短剣を抜いた。
「運が良いわね。懐の小銭入れが守ってくれるなんて。矢がほんの少しだけ急所から外れていたわ。でも、本当に命が助かるかどうかは、これからの貴方の態度次第、かしらね」
Cの目が短剣を見た。短剣の先はCの方を向いている。キャロラインの目は本気だ。態度次第では本当に殺すつもりだ。Cは少しだけ逡巡したが、やがて観念した様子で座り直した。
「行方不明者はどこにいるのか知っているかしら。貴方達に捕まっている時に聞いちゃったのよね、『星の円卓』が連続失踪事件に関わっていることを」
「いや、知らない。ひっ、待ってくれ。事件に関わったことは認める。だが、連れ去ったガキ共が今どこにいるのかは、親衛隊にも知らされていないんだ!」
途中から首元に短剣を突きつけられたCは、身を震わせながら早口でそう供述した。キャロラインがCの目の奥を覗き込み、言葉に嘘偽りがないか確かめた。しかし、十も数えないうちに短剣を鞘におさめると、ため息をつきながら立ち上がり、頭を横に振った。
「もう良いわ、立ちなさい。誰か、この人を安全な場所に匿って。このまま放っておくと、口封じに殺されるかもしれないから。――さて、と。こうなったらいよいよ、幹部の方々に直接お聞きするしかないかしら?」
次回は11月16日に公開予定です。
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