第14話 ギルドマスター(1)
ギルドマスターの仕事部屋なのだから、内装や家具などはさぞかし豪華なのだろうと、部屋に入る直前までオレは勝手にそんな風に想像していたが、実際に部屋の中に入ってみると驚くほど質素だった。華美なものは一切存在しておらず、実用性のみを追求したものばかりだった。
「なるほど、お前がヒロアキか。開拓者ギルドへようこそ。俺はギルドマスターのスティーブンだ。緊張する必要はない、リラックスしていくつかの簡単な質問に答えてくれればそれで良い」
オレにそう話しかけてきた人物は、筋骨隆々で大柄な男だった。黒い髪を真ん中で分けて髭を伸ばし、左の眉の上に傷痕があるその男こそが、ギルドマスターの仕事部屋に入る前に耳にした、あの獰猛な肉食獣が唸っているかのような、低い声の主であることにすぐに気が付いた。
それからオレは、ギルドマスターのスティーブンからいくつかの質問をされたのだが、昨日、白亜の砂浜で目覚めた時よりも前の記憶があるかどうかを聞かれた時には、何と答えたらいいのか困ってしまった。
どうしてかというと、「この世界はゲームの世界、つまり作り物の世界なんですよ」などと、正直に答えても信じてもらえるとはとても思えなかったからだ。だからオレは、噓をつくことにした。
「実は白亜の砂浜で目覚めた時よりも前の記憶を思い出そうと、昨日の夜から何度も頑張っているんですがどうしても思い出せないんです。ゴブリン達との戦いの時だって、何であそこまで戦うことが出来たのか、全く分からないんです」
スティーブンはオレの噓の言葉に黙って耳を傾けていた。その間、オレは噓をついていることを見抜かれるのではないかと、心の中で冷や汗をかいていた。しかし、スティーブンはオレの記憶についてそれ以上は何も聞いてはこなかった。そして、いくつかの質問が終わった後は、この世界の現状についての説明が始まった。
かつて、異世界の邪神の呪いによって海と大地は不毛の砂漠に変えられた。世界が絶望に覆われようとしていたその時、天空より再生神が降臨した。再生神は海と大地を呪いから解き放ち、転生の祝福によって転生した人間達と共に、現在も力を合わせて世界の再生を進めている――。
開拓祭の途中で虚無の暗黒に落ちた時よりも、ずっと前から知っていた『ヒロイック・オンライン』の世界観と、スティーブンから説明されたこの世界の現状は、ほぼ完全に一致していた。だが、一つだけ大きく違うところがあった。それは再生神が一年前から公の場に姿を現していないことだ。
非常に重要なNPCではあるものの、ずっと大聖堂の中にいるわけではなく、開拓祭のような大きなイベントがある時には、ごく稀に公の場に姿を現すことがあったらしい。らしいというのは、オレは再生神に対してあまり興味がなかったからだ。
再生神が演説の最後に言った言葉から考えると、オレの生存は再生神にとって不都合なはず。それなのに再生神はオレに対してまだ何もしてきていない。それとも、まだこのことを知らないのか、あるいは、知っていても何も出来ないのか。今のオレでは何も分からなかった。
次回は2月5日に公開予定です。
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