第139話 儚い光
マリアンの想いが何度も頭の中をぐるぐると回る。夜になっても止まる気配はない。この時間帯になるとさすがに、兵士や狩人の姿もあまり見ない。
あまり気を張り続けてもいけない。剣だけを装備して湖の近くを散歩しよう。バルバラの小屋をそっと抜け出し、フクロウがほうほうと鳴くのを聞きながら、深夜の森を静かに歩く。
やがて、きらきらした光が見えてきた。さらに進むと森を抜け、目の前に湖が広がった。きらきらした光は、湖面に映る月の光だった。オレはその場に腰を下ろし、湖を眺める。
しばらくの間、輪郭がぼやけて揺れる湖面の月を見ていたが、やがて月と星以外の光がぽつぽつと、湖面に映っていくのが見えた。何の光だろうと、周囲を見回した。
森の木々の間に、さっきまでなかった光がある。それらは見ている間も一つ一つまた一つと、少しずつ増えている。全てが淡い黄色の、今にも消えそうな淡い光だった。
「貴方も来ていたのですね、ヒロアキ。私も偶然ここに来たのですが、本当に美しい景色ですね。マリアンから聞いたのですが、この景色が黄金の森の名前の由来になったそうです」
リラックスした声でオレに話しかけてきたのは、武装解除して私服姿のマキナだった。彼女はオレの傍に来るとその場に座って、目の前に広がる美しい景色をじっと眺めた。
「あの光は何だい。今まで見たことがない」
「春になると黄金の森の花々が、ご神木から与えられた生命力によって光るそうです。そういうこの土地特有の品種があるんだとか。ただ、今年は早枯れの影響もあるのか、例年より生育が悪いそうです」
マキナはそう言って表情を少し暗くした。ここでも繋がってくるのか。せっかくの気分転換出来る機会だ、何とか空気を変えよう。オレは立ち上がって彼女を誘い、湖の周りを一緒に歩くことにした。
「さっきマリアンのことを言っていたけれど、仲良くなれたみたいだね」
「ええ、そうなんです。あの子は頭が良くて優しい子ですね。聞かれたくないことは聞きませんし、聞きたいことは積極的に教えてくれます。あれは特別な力とは違う、あの子自身の気質からくるものですね」
マキナの顔に少しだけ笑顔が戻った。幻想的な夜景を背に、彼女の銀髪と透き通るような白い肌、それら全てが一枚の絵のようになって美しく映えている。まるで空想の中にいるような光景に、一時心を奪われた。
だが、夢は長く続かなかった。湖の水面に不気味な泡が浮かんで弾けたかと思うと、水しぶきを上げて水中から一つの影が飛び出し、地上を恐ろしく早く飛び跳ねながらこちらに迫った。
しかし、オレは素早く剣を抜くと、即座に『疾風突き』を発動して影を貫いた。すると、影は徐々に形を失い、どろどろとした液体となって地面に広がった。無残な残骸となったそれの正体に、オレは気付いた。
ブルースライムだ。水のある場所ならそう珍しくもない魔物だ。でも、こいつは普通じゃない。こいつは本来、とんでもなく動きの鈍い魔物だ。それに、この核は何だ。オレは二つに割れた核を拾い上げた。
こいつの、ブルースライムの核は、こんなにも禍々しい赤色だっただろうか――?
次回は10月19日に公開予定です。
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