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第135話 暗がりの中で

 ツバキのいる場所は不思議な場所だ。鳥のさえずりも虫の鳴き声も、風が木の葉を揺らす音さえ聞こえない。光すら遮られているこの空間で、今はオレとツバキの二人きりだ。


「どうしてここに来られたのかな。オレとキャロラインさん以外はみんな、隠れ家に誰も近付かないように、総出で見張ってくれているはずなんだけどな」


 マリアンに演説をしてもらう少し前に、『暁の至宝』の動けるメンバー全員を急いで集め、オレ以外は見張りをすることになったのだが、それでも彼女の侵入は防げなかったのか。


「心配しなくても、貴方の仲間達は優秀よ。これでも、私は『星の円卓』で一番、隠密が得意だったから。ジャックだったかしら。あの子だけは、私の存在に気付きかけたけど」


 ツバキはあっさりそう言ってのけると、マリアンに視線を移した。マリアンもまた、周囲に悟られぬようツバキの方を見ていた。しかし、マリアンの異変に気付いたハーフエルフの青年が、一言二言話し合った後、彼女を別の場所へと丁重に連れて行った。


「演説、少しだけ聞かせてもらったわ。良い作戦、だと思う。『暁の至宝』が、そのスタンスなら、私からも提案がある。その作戦に私も、協力させて欲しいの」


 ツバキの思わぬ申し出に、オレは驚きで目を見開いた。同時に、オレは真意を探ろうと彼女の目を覗き込んだ。彼女の黒い瞳は深く澄んでいるが、奥底に潜んでいる真意までは読み取れなかった。


「なら条件がある。隠密が得意なら、ご神木の神殿の中に潜入して、内部の様子を探ってくれ。誰が何人いるのか。何がどれだけあるのか。その情報を持ち帰ってくるんだ」


 我ながら酷な要求をしているなと思った。袂を分かったとはいえ、元仲間の懐に忍び込み、痛い腹を探れと命令しているのだから。しかし、彼女は涼しげな顔で「そう、分かったわ」とだけ返し、背を向けて去っていこうとした。


「えっ。ええと、思ったよりあっさりしているね。ちょっとくらいは迷うかなって思っていたんだけど」


「貴方が想像しているよりもずっと、『星の円卓』は利害の一致だけで繋がった、利己主義者の集まりよ。私も含めてね。だからこの程度、躊躇うことはないわ」


 ツバキは淡々とそう言うと、闇の中へと溶け込んでいった。『星の円卓』の仲間内は険悪だとは、もう何度も見聞きしたはずなのに、ああも平然としていられると、改めて驚かされる。


 しかし、これでさらに有効な手札が増えた。持ち帰る情報次第ではツバキ自身もハーフエルフ達から信用されるようになるし、差別問題が解決となれば、開拓者の間の名誉も回復する。命の危険もあるが、それも彼女は承知の上だろう。


 そろそろオレも戻ろう。闇の中から抜け出すと、オレを探していたらしいハーフエルフ達にびっくりされたが、すぐに『暁の至宝』のメンバーが戻って集まっていることを知らされ、ひとまず合流することにした。


 ここまでは何もかもが順調だった。だが、本当の戦いは、シャーウッドに潜む闇が牙を剥くのは、ここからだった。


次回は9月21日に公開予定です。

ツイッターもよろしくお願いします!

https://twitter.com/nakamurayuta26


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