表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/142

第133話 三つの鍵

 一夜明けてすぐの東の空が白んできた頃、オレはアンヌとエマニエルと共に、ハーフエルフの隠れ家へと向かっていた。朝霧の中をぬかるんだ地面に気を付けて進むと、やがていくつかの木箱が見えてきた。


「お兄さん、おはよう。迎えに行こうかなって思ってたのに、もうここに来れるようになるなんて、やっぱり開拓者ってすごいや!」


 ロビンが笑顔でこちらに駆け寄って来た。マリアンも木箱のような家の陰に隠れたまま、じっとオレの方を見ている。アンヌとエマニエルはマリアンに挨拶をしたが、マリアンはオレから目を離そうとしない。


「私の目に狂いはなかった。お兄さんなら戻ってきてくれる。私達の力になってくれる。私はそう信じていたよ。早くこっちに来て。まだ眠っているみんなを起こさないために」


 マリアンの話し方は抑揚に乏しく、とてもぼんやりしている。まるでまだ夢の中にいるようだ。マリアンに連れられて隠れ家を少し離れると、昨夜決まったことを伝えた。


「分かった。みんなにも協力してって、私から伝えるね。ロビン、手伝ってくれる?」


「もちろんさ。呼びかけから情報収集まで、何でもござれさ。そろそろ起きている人もいるだろうから、さっそく呼びかけに行ってくるよ!」


 ロビンは生き生きと隠れ家の方へ戻った。若々しさ溢れる動き方に、転生前のアラサーの肉体と生来の老け顔をふと思い出し、ほんの少しだけ羨望してしまった。


「でも、これで事件が解決しても、本当に差別問題は解決するんでしょうか?」


「大丈夫、さっきも言ったけど、ちゃんと考えてあるよ。むしろ、『星の円卓』がどう動くかの方が気がかりかな。それ以外なら、打つ手はある」


 やや不安そうなエマニエルにオレは安心させるような言い方をした。エマニエルは両目をぱちぱちとさせると、不安を押し殺して頷いた。そう、作戦はもう始まっている。ここからは時間との勝負だ。


 マリアンは最初の鍵だ。初めて隠れ家に連れられた時に目にした、ハーフエルフ達のマリアンへの態度、あれは何かを信仰する者のそれだ。マリアン本人も、自身に向けられる視線の意味を理解しているようだった。


「不安なら、作戦の確認をしよう。昨日までの調査で、シャーウッドの内情が少しだけ分かったよ。村の上層部は『星の円卓』と、おそらく何らかの取引をしていて、そのせいで上層部は『星の円卓』の言いなりになっている。取引の内容までは分からないけど、知られたら都合の悪いもの、これは確かだろうね」


 根拠は、神殿前で上層部側につく者である兵士達が、『乙女座』にまるで下僕のような態度を見せたことだ。これが第二の鍵だ。そしてこれは、第三の鍵に繋がる。


「差別を煽っているのは主に村の上層部で、村民はそれに流されているだけだ。しかも、ハーフエルフに密かに同情している人もいるみたいだ。そこが村の支配構造の隙だ。上層部の権威が揺らぐようなことがあれば、それが差別問題を解決する糸口になる」


 取引の内容次第では、村の上層部の権威は失墜する。相手もそのことを理解しているから、こちらの調査を警戒しているのだ。そして、相手がこちらの思惑に気付くのもそう遠くない。元プレイヤーならではの動きをするかもしれない『星の円卓』も、こうなると厄介な存在だ。だからこその、時間との勝負、なのだ。


 これがオレが提案した作戦の鍵の中で、最も重要な三つだ。もちろん、ロビンとマリアン、それからハーフエルフ達の信頼を完全に得るには、まだ手を打つ必要がある。オレは父の教えを思い出しながら、次の一手を模索し始めた。


次回は9月7日に公開予定です。

ツイッターもよろしくお願いします!

https://twitter.com/nakamurayuta26


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ