第132話 バルバラの秘密
マリアンのことはハーフエルフ差別問題も絡んでくるので、自分一人ではとても手に負えない。一人を助ければ全員を助けないといけなくなるからだ。ロビンとマリアンの期待の視線を背に感じながら、その場を去るのは気が重かった。
「二人は外の世界から来たオレ達が、ハーフエルフ差別問題を解決するきっかけになるかもしれない。そう思っているみたいだ」
オレはため息と共に、ロビンとマリアンについての説明を終えた。夜を迎えたバルバラの小屋の中の空気は静かで重い。説明を聞いた者達の反応は様々だが、特に気になったのはバルバラの反応だった。冷静どころかにやにや笑ってすらいたのだ。
「ふむふむ、この短期間でハーフエルフ達の隠れ家を見つけたか。感心、感心。しかも、あのマリアンと繋がりまで出来るとはね」
バルバラの発言に室内がざわついた。口ぶりからして前々から知っていたのか。ハーフエルフの存在を知っていながら、今まで教えてこなかったのには、何か理由があるのだろうか。しかも、マリアンのことまで知っているとは。
「ハーフエルフの問題は中々面倒だからね。いつ教えようか迷っていたが、そちらが先に見つけてくれるとは、手間が省けて助かった。さて、次はどうするかな。特にマリアンはどうしたものか」
考え込み始めたバルバラは杖の先で床をかいた。手がかりが掴めそうなのに、掴もうとしたら別の問題がついてくる。父ならどうしただろう。優秀な警察官だった父なら、次はどうしただろうか。
「師匠。どうして師匠はそんなにハーフエルフのことを気にかけているんですか。いつもの師匠なら、重要だけど言いにくいことほど、ずばっと言う印象があるんですけど」
「ああ、そういえばまだ教えていなかったね。私もハーフエルフなのさ。そうでなければ、シャーウッドで最も優れた魔法使いであるこの私が、こんな古びた小屋に住んでいるわけないだろう?」
バルバラはあっさりと言ってのけたが、オレ達はそうはいかなかった。まずエマニエルがすぐに答えにくいことを聞いたと謝り、その姿を見てオレもハーフエルフの隠れ家での失言を思い出し、つい俯いてしまった。
隠された真実を探すのは、他人の秘密を探るのと同じだ。今更ながらこの重大な事実に気付いた。
「話を聞く限り、そのご神木様の神殿とやらが怪しいな。この大変な状況で人手を神殿の守りに割くなんて、不自然過ぎるぜ。やましい物を神殿の中に隠している、とかなら話は別だがな」
「そうだよねえ。でも、調べるにしても、どうやって神殿の中に入るのさ。そいつらが素直に入れてくれるとは、私はとても思えないんだよねえ」
空気を変えようとしたジャックの発言にアンヌが続き、それからまた場が沈黙した。オレはみんなの様子を慎重にうかがいながら、頭の中で一つ一つ言葉を整理し、深く息を吸ってゆっくりと口を開いた。
「マリアンとハーフエルフ達を味方につけましょう。立場がどうであれ、バルバラさん以外で村の事情に詳しくて、こちらに協力してくれそうなのは現状、あの人達だけです。バルバラさんが警戒されて動けない以上、これしかないかと」
オレはそう言ったが、実はもう一人だけ協力してくれそうな者を知っている。元『星の円卓』所属のツバキだ。彼女も味方についてくれれば心強いが、今はどこにいるんだろう。
次回は8月24日に公開予定です。
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