第131話 マリアン
オレはロビンにつれられて、村の外れへと来ていた。だが、村の外れとはいっても、バルバラの小屋とは逆方向に歩いた。村から離れて数分の場所に目的地はあった。そこには板を釘で繋ぎ合わせただけの、犬小屋のようなものがいくつか点在していた。
「マリアン、僕だよ。君に会わせたい人がいるんだ。大丈夫、君を傷付けるような人じゃないから」
粗末な小屋と表現するのも躊躇うものの一つに、ロビンは前屈みになってそっと話しかけた。すると、中からごそごそと音がしたかと思ったら、一人の少女が姿を見せた。少女のみずぼらしい格好と、あまり尖っていない耳から、悪い予感が頭をよぎった。
「お兄さん、本当に悪い人じゃないの。痛いこととか、しない?」
少女は怯えた様子でオレの反応をうかがっている。服の汚れと肌荒れが目立ち、やせ細った骨と皮しかないような体からは、栄養状態の悪さが一目で分かる。気付けば少女と似たような存在が、周囲に何人もいてこちらを見ていた。
「ロビン、ここに住む人達は全員、ハーフエルフなのか?」
動揺のあまり不用意な発言をしてしまった。転生前の設定では、ハーフエルフはエルフと人間の混血で、純血のエルフより魔法適正が低いせいで、エルフ族から迫害を受けていることになっていた。残酷な設定を受け継いだこの世界と、何よりも自分の迂闊さを呪った。
「ごめん、答えにくいことだったよね」
「そこまで気にしなくて良いよ。事実だしね。驚くのも無理はないや。それよりも、お兄さんがハーフエルフを知っていることの方がびっくりだよ。外の世界には教えられていないのに」
必死に頭を下げたオレに対してロビンはあっけらかんと笑い、少女はちょっと首を傾げてきょとんとしていた。気分を害しなかったのは良かったが、今度はロビンの疑問にどう答えるか迷った。
「お兄さんの色は、とっても優しい色だね。でも、時々ちょっと危なっかしい色、かも?」
少女はどこかぼんやりとした目でオレを見た。オレであってオレでないような何かを見ているような、浮世離れした不思議な目だ。周りのハーフエルフ達も、静かに少女の言葉に耳を傾けている。
「ええと、紹介するね。この子の名前はマリアン。実はこの子、不思議な力を持っているんだ。人を見ると、その人の性格とか、近い将来の吉凶が色として見えるんだって。でも、ハーフエルフだからって理由だけで、誰も信じてくれないんだ」
「私ね、分かっていたの。いなくなっちゃった子がいなくなる前に、その子に悪いことが起こるって。でも、誰も信じようとしなかった。それどころか、私が犯人だって言う人もいた」
マリアンの悲しそうな表情に胸が痛んだ。ロビンによると疑いは既に晴れているらしいが、彼女の立場が悪いことに変わりはない。しかし、一方で彼女の存在はオレにとって、手詰まりになった調査を進展させてくれるかもしれない存在だ。
今のマリアンは色んな意味でデリケートだ。彼女の信頼を得て、調査に協力してもらう。その為には何を言い、何をすべきか。マリアンを怖がらせないよう優しく慎重に接しながら、オレは必死に思考を巡らせた。
次回は8月17日に公開予定です。
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