第130話 神殿と乙女座
ご神木様の神殿は村の一番奥、村長の家から数十歩歩いた先の、根元の小高い場所にあった。日本の神社に似た建築様式で、いかにも格式高そうな木造だった。神殿の周囲には見回り兵が何人も巡回している。
「すごい数でしょ。最初の失踪からすぐに増えたんだ。村長直々の命令でね。失踪者を探すのを優先せずにだよ。変だと思わない?」
物陰に一緒に隠れたままロビンは言った。オレは何も言わずに頷き、見回り兵の巡回ルートを可能な限り頭に叩き込んでいく。すると、途中で見回り兵が立ち止まり、正面玄関の見張りも姿勢を正した。
「やっほー。みんな、頑張ってるかなー。もし、さぼっていたりしたら――お仕置きだぞ?」
少女の声が聞こえてきた。媚びるような猫撫で声の中に、背筋が凍りつきそうな冷酷さがあった。やがて少女はその姿を見せた。ピンク色のツインテールを毛先だけ青色に染め、妙にフリフリキラキラした服を着ていた。
「は、はい。言われた通りに厳重な警備をしています!」
「本当かなー。じゃあ何で、あっちに覗き見している人が二人もいるのかなー?」
少女はそう言ってこちらに笑顔を向け、ウインクをしてみせた。顔立ちの整った高校生くらいの美少女なのに、奇妙な悪寒が止まらない。怯えるロビンを背後に庇いつつ、オレは物陰から出た。
「お前が『乙女座』のオードリー・モンローか?」
「ピンポンピンポン、大正解。もしかしてオードリーちゃん、超有名人!?」
オレの問いにオードリーは、予想の斜め上な反応をしながら肯定した。自意識過剰で自分勝手な雰囲気はありありだが、ツバキが言うほどの言動は今のところまだ見当たらない。しかし、違和感が拭い切れない。
「誰あの人。僕、あんな人知らない。怖いし気持ち悪い」
ロビンの声は囁き程度の大きさだった。だが、オードリーは笑顔を瞬時に真顔へと変えて、腰のベルトに差していた杖を手に取り、ロビンへ炎の弾丸を放った。
オレは素早く盾を構え、スキルを発動した。スキルの力を得たオレの盾は、迫り来る炎の弾丸を容易く防ぎ切った。対魔法用の新スキル、『魔除けの盾』の効果だ。
あいつ、元素魔法語の詠唱をしなかった。まさか、あのスキルを習得しているのか。だとしたら、相当な強さだ。念のため剣と盾だけ持ってきておいて良かった。さらに剣を抜き、身構える。
「気持ち悪いって何。オードリーちゃんはね、世界一カワイイ魔法少女アイドルなんだよ。ふざけたこと言ってんじゃねーぞ!」
オードリーは猫かぶりを止めて声を荒げ、怒りで顔を真っ赤にして目を血走らせた。見張りと見回り兵は恐怖で青ざめて震えている。オレも思わず半歩引いてしまった。
彼女の豹変ぶりにその場にいる全員が恐れ慄いていたが、しばらくしてようやく冷静になったらしい彼女は、再び猫をかぶって周囲に作り笑顔をふりまいた。
「ごめんねー、驚かせちゃったよねー。オードリーちゃん、急用を思い出したから帰るね。バイバーイ!」
オードリーはそう言って慌てて逃げるように立ち去った。嵐が過ぎ去った後のような静けさの中、オレとロビンはこっそりその場から離れた。そして、オレに会わせたい人がいると、オレの手を引くロビンについて行く事にした。
次回は8月10日に公開予定です。
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