第13話 アンカラッド(4)
港町の朝は本当に早いものである。日の出からまだ数分ほどしか経過していないというのに、アンカラッドの目抜き通りは行き交う人々や馬車などで驚くほど混雑していた。
昨夜、アンヌが強引に話を打ち切った時に見せた様子が頭から中々離れず、会社員になってからは一度もしたことがなかった寝坊を久し振りにしてしまった。そのせいで、ようやく開拓者ギルドに着いた頃にはすっかり疲れ果ててしまっていた。
アンヌからは「もう少し早く起きて宿から出ていれば、こんなに苦労しなくてよかったのに!」などと、肩で息をしながらの状態でぶつくさと文句を言われたが、全く持ってその通りなので何も言い返せなかった。
開拓者ギルドの中も目抜き通りとほぼ同じくらい混雑していた。レベッカはもちろんのこと、それ以外の受付を担当していると思われる数名の女性達も、残念ながら今はオレ達への対応をしてくれそうにはなかった。
こうなっては仕方がないので、寝坊してしまったことを改めて謝りつつ、アンヌと共に空席を探した。すると、入口から一番遠い隅の席が空いていたので、そこに座って待つことにした。そして、席に座ってから約三十分が過ぎた頃に、ようやくレベッカがオレ達への対応をしにやって来た。
「アンヌさんにヒロアキさん、大変長らくお待たせして申し訳ございませんでした。この時間帯はどうしても、少しでも報酬の良い依頼を受けようとして、開拓者の方々が開拓者ギルドに殺到してしまうのです」
レベッカがオレ達に申し訳なさそうにそう言った直後、ここからそう遠くない場所から言い争う声が聞こえてきた。どうやら集まっている一部の開拓者達の間で、報酬の良い依頼を巡ってトラブルが発生しているようだった。
「ギルドマスターが奥の部屋でお待ちしております。奥の部屋までご案内しますので、私についてきて下さい!」
レベッカはそれを見て、ギルドマスターが待つ奥の部屋へと急いで案内を始めた。レベッカがついさっき言っていたように少しでも報酬の良い依頼を求めて、開拓者ギルドに大勢の開拓者達が集まっているからこそ、こういったトラブルが発生するのだろう。余計なトラブルには巻き込まれたくないので、オレ達も慌てて彼女についていった。
そして、二階の一番奥にある部屋の前でレベッカは立ち止まった。目の前の部屋が何の部屋なのかレベッカに聞くと、彼女はギルドマスターの仕事部屋だと答えた。彼女は部屋のドアをノックして「失礼します。レベッカです。お客様をご案内しました」と言うと、ドアの向こう側から「分かった。入ってきてくれ」と、誰かが返事をした。
返事をしたのが誰なのかは、考えるまでもなくギルドマスターなのだろうが、まるで獰猛な肉食獣が唸っているかのような低い声だった。とんでもなく威圧感のある声を耳にして、オレは思わず怯みそうになったが、必死に覚悟を決めてギルドマスターが待っている部屋の中へと入っていった。
次回は1月22日に公開予定です。
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