第129話 ロビン
翌朝、体調が回復したオレは住民を刺激しないよう、細心の注意を払いながら調査を始めていた。それでもエルフ族は物陰から、あるいは建物の中から、オレに疑惑と拒絶の目を向けていた。
情報を聞き出そうとして近付いても、警戒して離れていってしまう。事件の調査は難航していたが、諦めずに継続していった結果、主婦の井戸端会議から、見回り兵の雑談から、同情してくれた老人から、少しだけ情報を集められた。
失踪者は野外で一人だけになったほんの数分間の間に、一切の痕跡を残さず行方不明になっていること。失踪は常に一定の間隔を開けて発生していること。失踪者が増える毎に、森の早枯れの範囲が広がっていること。
もう耳にしたことのある情報でも、地元民からの情報はより細部まで状況を把握出来るものだった。しかし、見回り兵や狩人の警戒も厳しくなりつつある。対象はオレ達余所者だ。
いよいよもって手詰まりになりつつあったが、一人のエルフ族の少年が周りを気にしながら、木陰で休むオレの元に走り寄って来た。ただ、エルフ族は人間やドワーフより長寿なので、実際には分からない。
「お兄さん、外の世界から来た人だよね。僕ね、外の世界のことを知りたいんだ。だから、何でも良いから教えてよ!」
少年は目を好奇心で輝かせながら、身近な誰かさんを彷彿とさせる鼻息の荒さで迫って来た。オレは苦笑しつつ少年にある取引を持ちかけてみた。すると、少年は快諾してオレの隣に座った。
それからオレは、外の世界で経験した出来事を、順を追って教えて上げた。アンカラッドで開拓者になって、『暁の至宝』に入団した時の頃から、今日という日までの出来事を思い出しながら。
「さて、話せることは全部話したぞ。約束通り、事件について知っていることを教えてくれないか?」
本当に全てを教えたわけではない。子供の夢を壊したくはなかったからだ。それでも少年は興奮していたが、約束を思い出して冷静になったのか、きゅっと表情を引き締めた。
少年は子供なりに一生懸命に話してくれたが、目新しい情報は得られなかった。少年もそれを察してか、オレの反応に不満をみせたが、すぐに別の何かを思い出したようで、オレの耳元でこう囁いた。
「だったら、この情報はどうかな。村のご神木様と神殿。ご神木様はあのすっごく大きな木のことで、たくさんの枝葉で得た生命力を、黄金の森全体へ分け与えている。そんな言い伝えがあるんだ」
少年は雲にも届きそうな巨木、ご神木様を指差した。初めて聞く情報だ。本来、部外者には教えてはならないのだろう。少年はオレから離れ、村の奥へと走り出し、オレを手招きする。
「詳しいことは、ご神木様の神殿まで案内してから言うよ。あ、そうだ。僕の名前、まだ言っていなかったや。ロビンっていうんだ。よろしくね、お兄さん。それじゃあ、出発だ!」
次回は8月3日に公開予定です。
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