第128話 安らぎのひと時
夜の密会から一夜明け、一睡も出来なかったオレはさらに酷くなった頭痛に耐えながら、ベッドから這い出てリビングに向かった。リビングには既にオレ以外の全員が集まっていた。
「ヒロアキさん、おはようございます。あの、実はこんな薬を作ってみました。この薬は疲労回復と睡眠改善の効果があって、ヒロアキさんに差し上げようと思いまして!」
エマニエルはそう言って青色の薬瓶を差し出した。オレは薬瓶を受け取って蓋を開けた。すると、爽やかなミントのような香りが広がった。少し吸っただけで、頭痛が僅かながら和らいだ気がした。
「私、ヒロアキさんが最近、あまりよく眠れていないのを知ってから、何か出来ないかなってずっと思って。それで、この小屋に来た時に、その薬を作ることにしたんです!」
「まあ、そういうことだから、休め。バルバラさんも今日は自由にして良いって言ってたからな。探りは俺が入れるから、お前は大人しくしていろってな」
ジャックはオレの肩をぽんと叩くと、朝食のサンドイッチを一つだけ摘まんで、足取り軽く小屋を出た。みんなの言葉に甘えて部屋に戻ると、持ち帰った朝食を食べて薬を飲み、ベッドの上で横になった。
こうやってゆっくりとした朝の時間を過ごすのも、実に久々になるな。だが、どうにも落ち着かない。何度寝返りをうっても、未だに痛みが残る脳内に様々な考えがよぎっては消える。
「そんなに眠れないのなら、魔法で眠れるようにしてあげても構わないよ。明日の朝までぐっすりさ」
バルバラの声が不意に耳に入ったので、オレはびっくりして飛び起きた。そんな姿を目にしたバルバラは意地の悪そうな笑みを浮かべ、杖の先端をオレの方に向けてみせた。オレはぎょっとして手を振って拒否した。
「冗談さ。真に受けるなよ。それより、エマニエルから聞いたよ。寝付きが良くないそうだね。原因に心当たりは?」
バルバラがオレの顔を覗き込んで問う。ツバキが口にした『神の権能』という言葉。それがずっと頭の中に引っかかって神経を削っているのだ。昨夜はそのことについて聞くチャンスだったが、『乙女座』の情報に気を取られてしまっていた。
返事を待っている間もバルバラはにやにや笑っているが、目だけはオレの目の奥まで見透かそうとしている。彼女はどこまで知っているのだろうか。オレの秘密を。
「ふむ、答えにくいならそれでも構わないさ。ともかく今日はゆっくり休みたまえ。それと、明日から用事があるなら自由に行動しても良いよ」
バルバラはそう言ってあっさりと引き下がった。安堵すべきかどうか複雑な気持ちになっていると、まぶたが重くなってきた。バルバラもオレの異変に気付いたようで、部屋から立ち去ろうとしていたところを立ち止まった。
「ようやく薬が効いてきたようだね。キャロラインがうちの上層部の妨害を阻止している間に、体調を整えてさっさと調査を終わらせることだね」
そうか、こうしている間もキャロラインは、遠くからオレ達を守ってくれているのか。そう思った瞬間、耐え難い眠気に襲われ、オレの意識は夢の世界へと落ちていった。
次回は7月27日に公開予定です。
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