第126話 薬の調合
日没前には何とか薬草集めが終わり、バルバラの古びた小屋へ戻っていたオレ達は、明日からのチームの活動方針を話し合っていた。しかし、これといった進展はなく、そのまま解散となった。
その夜、オレは昨夜と全く同じ夢を見た。夢の中の父はドラマの問題点を指摘しつつ、実際の捜査手法や犯人の心理について解説していた。あまり教えて良いことではないことを、何故オレに教えたのか。今となっては知る術はない。
「いい加減に起きな。今日は薬の調合だよ。十数えるまでに起きなかったら、目が覚めやすいように頭を氷づけにするよ」
バルバラの恐ろしい言葉にオレは飛び起きた。窓から空を見てみると、思っていたよりも陽が高い位置にあった。完全な寝坊だ。血の気が引いていくのを感じながら、小屋の地下室へと急いだ。
小屋の地下室には薬品と湿った石の匂いが入り混じった、胸がむせるような空気が満ちていた。顔をしかめて口と鼻を覆いながら階段を下りると、他のメンバーはすでに全員集合していた。
「おはよう、ヒロアキ。はいこれ、早く持って。寝坊した分働いてもらうから、覚悟しな!」
「本当にごめん。今すぐ持って行くよ!」
アンヌから薬箱を受け取ったオレは、急いで一階に戻ってとある部屋に入った。木造の小屋の中では少し異質な石造りで、地下室と同じくドアに頑丈そうな錠前がある。鍵はかかっていないのでそのまま入った。
中に入るとまず目を引くのは、もくもくと煙を上げている大きな釜だ。釜から出ている煙の匂いから、様々な薬草を混ぜて煮込んでいるのが分かる。
大きな釜は錬金釜と呼ばれる代物であり、転生前では錬金術スキルを習得していないと扱えないアイテムで、錬金術スキルでのアイテム制作に必要不可欠な物でもあった。
エマニエルが真剣な表情で、慎重に釜の中身を混ぜているのを見て、オレは邪魔にならないよう机の上にそっと薬箱を置くと、静かに調合室から出た。
それから地下室と調合室を何度も往復し、机の上に新しい薬が次々と置かれるのを目にした。エマニエルの集中が途切れる気配はなく、魔法の研究をしている時と同じようだった。
薬の調合は夕方近くになってようやく終わったが、地下室から運び出した諸々に比べて、机の上の新しい薬は極端に少ないように感じた。不思議に思っていると、バルバラが音もなくオレの傍に現れた。
「不思議だろう。これが等価交換の法則さ。この法則には例え神であろうと逆らえない。ふむ、質も問題ないね。これなら良い保険になる。お疲れ、エマニエル。もう休んで良いよ」
保険とはどういうことだろう。オレの疑問に答える気はないとばかりに、バルバラは新しい薬を持ってさっさと調合室から出てしまった。何とかの法則といい、バルバラはキャロラインより謎めいていて、正直、ついていけるか不安になってきていた。
次回は7月13日に公開予定です。
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