第125話 薬草採取
気が付けば、懐かしき父の実家のリビングにいた。明晰夢だというのはすぐに分かった。テーブルの向かいの席には、珍しく非番の父が、これまた珍しく酔っ払いながらテレビを見ていた。
「何だこりゃ。警察がこんなお粗末な捜査をするかよ。特に気に食わんのはだな――」
父がありきたりな刑事ドラマの内容に文句を口にするのを、オレは父のグラスに酒をつぎながら聞かされていた。本当に珍しく機嫌が悪い父にオレは困惑していたが、次第に意識が薄くなっていった――。
再び意識がはっきりしてまず目に入ったのは、見覚えのない年季の入った天井だった。目をこすりながら昨日のことを思い出す。そうだ、長距離移動の疲れもあって、昨夜は早めに床についたのだった。
オレはベッドから起き上がると、窓から外の景色を眺めた。豊かな緑が早朝の光を浴びて、生き生きと輝いている。この緑といいこの小屋といい、父の実家の夢を見たのは、雰囲気がこの場所とよく似ているからだろう。
「ヒロアキ、起きているかい。バルバラさんから頼まれている薬草集め、早く始めないと日が暮れても終わらないよ。ほらほら早く!」
ドアの向こうからアンヌが急かす。オレは頭を振って夢の余韻を払うと、急いで支度を済ませて小屋を出発した。紙切れに書かれている薬草の種類と量は膨大で、オレ達は手分けして森の中を奔走した。
解毒作用のある白い花、熱冷ましによく使われる褐色の野草、胃腸薬として重宝されている紫色の花の根。自然の中でしか育たない貴重な薬草を、オレは汗を流しながら次々と採取した。
やがて陽が天高く昇った頃、ようやく頼まれた分の半分を全員で集めれれたので、集合して昼休憩をとることにした。各々が思い思いの場所に座り、昼食の準備をする。メニューは鶏肉と卵と山菜のサンドイッチ、それから木の実のスープだ。
水の元素で冷やされていたそれらを、エマニエルに火の元素で温め直してもらったら、まるで出来たてのように美味しそうになった。本当に元素魔法とは便利だ。もっと本格的に学んでみようかな。
サンドイッチはソースが良かった。甘辛いソースが鶏肉の旨味を引き立たせていた。木の実のスープは素朴で少ししょっぱかったが、汗を流した後の身にとってはごちそうに等しかった。
時間の余裕があまりないので昼食は手早く済ませたが、ジャックだけ未練がましくスープの入っていた水筒を逆さにしていたのを、アンヌが水筒を取り上げてジャックを立ち上がらせた。
よくあるいつもの光景。そんな和やかな空気を一変させる集団が、森の奥から続々と姿を現わした。弓矢と短剣で武装したエルフ族の狩人達だ。シャーウッドの狩人達は現在、事件のことで警戒を強めていると、バルバラからはそう聞いていた。
案の定、狩人達はオレ達を睨み付けながら、すぐ近くを通り過ぎ、再び森の奥へと消えていった。どうも思っていたより火種は多く、問題の根は深そうだ。作業再開の前に、気が重くなってしまった。
次回は7月6日に公開予定です。
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