第124話 バルバラ
なだらかな下り坂を下りて行くと、大巨木がより大きく見えた。エルフ族の村シャーウッドは、大巨木と湖を繋ぐような形で、ずらりと木造建築が立ち並んでいる、とても静かな村だった。
いや、おかしい。あまりにも静か過ぎる。人通りが少ないからだ。その数少ないエルフ族も、あからさまにこちらを警戒している。元から排他的な種族だとは聞いていたが、連続失踪事件がその傾向をさらに強くしているのだろう。
「私はシャーウッドの上層部と、連携して調査出来ないか話し合ってくるから、貴方達はエマニエルの師匠の所に行ってちょうだい。それじゃあ、彼女によろしくね」
キャロラインはそれだけ言い残すと、さっさと大巨木の方へ歩いて行ってしまった。その後、彼女から渡された地図だけを頼りに、オレ達は村の外れにある古びた小屋に辿り着いた。
小屋の周りには、エマニエルが採取した青い斑点のある薬草を中心に、様々な種類の薬草が植えられている。入り混じった強烈な匂いにむせそうになりながら、オレは小屋の扉をノックした。
反応はなかった。もしかして留守なのか。これからどうしようか。途方にくれたオレ達の背後から、かすかな足音がゆっくりと近付いてきた。直前までなかった気配に驚き、オレ達は慌てて後ろを振り向いた。
「くっくっくっ。慌てることはないさ。私は敵じゃあないからね。おや、エマニエル、久し振りじゃあないか。魔法の修行は続けているかい。まさか、さぼってはいないだろうね?」
声の主は色褪せて灰色になったローブを着て、年季の入った茶褐色の杖を手にした、妙齢のエルフ族の女性だった。彼女がフードを脱ぐと、少々痛みが目立つ金髪が胸元まで流れ出た。
「私の名前はバルバラ。ああ、自己紹介ならいらないよ。キャロラインから教えてもらっているからね。活躍ぶりも聞き及んでいるよ」
バルバラは笑みを浮かべた。そう、おそらく彼女の笑みに悪意などないのだろう。なのに、どうしてこんなにも冷や汗が止まらないのだろう。エマニエルに至っては面白いくらいガタガタと震えている。
「ええと、はじめましてバルバラさん。キャロラインさんに言われてここに来たんですけど、それ以上は何をすれば良いか分からないんですよね」
我ながら情けないとオレは思った。今回はエルフ族の排他的な性質も一因ではあるが、キャロライン一人いなくなっただけで、次に何をすべきか具体的な案が出せなくなるとは、彼女にどれだけ頼っていたのか痛感させられた。
「キャロラインの奴、甘やかし過ぎたね。まあ良いさ、中に入りなよ。やるべきことが分からないなら、私がこき使ってやるよ。あいつはしばらく、ジジイ共の相手で忙しくなるだろうからね」
バルバラはにやりと笑い、オレ達を小屋の中へ手招きした。逃げたい、すごく逃げたい。でも、逃げたら後が怖そうだから、オレ達は覚悟を決めて小屋の中へと入っていった。
次回は6月29日に公開予定です。
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