第121話 混乱と緊張の春
新世界暦一〇二年四月。アンカラッドには春が訪れていた。色とりどりの花々が大通りを華やかにし、潮風が吹く度に花びらが舞う。毎年、この時期は『春華祭』で盛り上がっていて、本来であれば今年もそうなるはずだったらしい。
しかし、サラスメテル大聖堂の前に浮浪者が集まり、口々に支援を求める声を上げ、中央広場を騒然とさせていた。いつ騎士団と衝突してもおかしくない。ギルドはそれを避けるため、開拓者を動員して、暴動が起きそうになる度に介入していた。
「ちくしょう、いつになったら少しは収まるんだよ。もらえる金も少ないし、やってらんねえ!」
ジャックはテーブル席に腰を下ろすと、テーブルを乱暴に殴った。普段のギルドの食堂でそんなことをすれば、すぐに周りから白い目を向けられるのだが、思っていることは同じだからなのか、誰も何の反応も示さなかった。
年始に発生した暴動をきっかけに、少しずつ浮浪者が暴動を起こすようになっていた。『流れ星の子』に対する目も、日を追うごとに厳しくなってきている。居心地は悪くなっていく一方だ。
「文句を言っても仕方がない。とにかく、出来ることをしていくしかないよ」
オレは半分、自分に言い聞かせるようにそう言った。それにしても、キャロラインは今、どこで何をしているのだろう。昨夜発生した別の暴動を鎮圧してから、姿を全く見かけていない。すっかり遅くなってしまった朝食を待ちながら、オレはそんなことを考えていた。
「二人共、朝早くからお疲れ様。今から食事かしら。私もやっと食事の時間なの。それと、申し訳ないけれど、食事が終わったらギルドマスターの仕事部屋まで、一緒に来てくれないかしら。伝えないといけないことがあるの」
キャロラインは微笑みながら、オレ達と同じテーブル席に座ると、レベッカを呼んで自分の注文を伝えた。テーブル席から忙しそうに離れるレベッカを優しく見送って、それから彼女はオレ達の方に向き直った。
「ま、難しい話は後にして、今は楽しいことをお話ししましょう。実はね、マリーナちゃんから手紙が届いてね。それでマキナちゃんたら、今朝から嬉しいのを隠そうとしているのよ。可愛いでしょ?」
キャロラインはくすくす笑う。ようやく舞い込んだ明るい話題に、ほっと一息つくことが出来たオレ達は、それから三人で楽しいことだけを話しながら、遅くなった朝食を待つことにした。
「キャロラインさん、おはようございます。言われた通りに、みんなを呼んできましたよ。ほらほら、エマニエル。もうすぐ昼前なんだから、しゃきっとしな!」
アンヌは元気よくあいさつをしてから、眠たそうにしているエマニエルの服の袖を引っ張りつつ、テーブル席までやって来た。二人の後ろからマキナも、ぺこりと小さく頭を下げて、そろりそろりとついてきている。
それからオレ達は全員で、同じテーブル席で遅めの朝食をとった。最近はみんな、それぞれ忙しなく働いているので、こうやって穏やかな時間を全員で共有するのも、実に久し振りなことだった。次は、いつになるのだろうか。
次回は6月8日に公開予定です。
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