第120話 神の権能
特別連合チーム『砕氷の牙』は目的を達成し、解散となった。途中離脱者が続出したが、今回は特例として離脱者にも、少額ながら報酬金が支払われた。それだけ、この一件をギルドは重く見ていた、ということだろう。
メリッサは再びまとめ役に就任した。最後の決戦での功績が評価されたのだろう。以前よりもさらに、彼女は自分の務めを意欲的に果たしていて、北東地域の開拓はますます進むことだろう。
そして、アイスドラゴン討伐から二週間が経ち、いよいよ翌日にアンカラッドへ帰還することとなった。その夜に、ツバキから「二人きりで話したいことがある」と言われ、オレは人気のない場所でツバキと二人きりになった。
「ここなら良いだろ。それで、話って?」
「そう、ね。まずは、私とタイソンが、『星の円卓』から抜けた。理由は、トップのアーサーが、もう信じられない、から」
まあ、そうなるだろうな。それがオレの正直な感想だった。アーサーが実際にどんな奴かは知らないが、拠点でそいつが企ててたことと、ツバキが一瞬だけ苦い表情を見せたことから、ろくな奴ではないのだろう。
「あとは忠告、ね。黄金の森に、エルフ族の住処に行くなら、気を付けなさい。『乙女座』がそこで、エルフ族の離反に、関わっていたはず、だから。あの性悪女なら、必ずそうする」
ガマガエル君を拠点の外に、無断で捨てて隠した一件は、それに関わったエルフ族の信用を大きく傷付けた。この一件の大元は『星の円卓』なのだから、『乙女座』とやらが関わっていても、不思議ではない。
「でも、何で『乙女座』が関わったって考えているんだ。そもそも、オレ達には黄金の森に行く予定はないのに、どうしてその『乙女座』とかいう奴に気を付けないといけないんだ?」
「エルフ族の魔法を習得するために、エルフ族に恩を売った、から。彼女は魔法に対する、執着心が強いから、チャンスがあれば、どんな手段でも使う。彼女なら、間違いなくそうする」
ツバキは嫌悪感をあらわにした。彼女の言い分を聞くに、『乙女座』とやらは女性の魔法使いらしいが、なるほど、一応の警戒はしておいた方が良さそうだ。彼女は一度、静かに深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「最後に、これはある意味、予言。貴方は必ず、黄金の森を訪れる、ことになる。それも、そう遠くない内に」
ツバキはそう言って、背中を見せて立ち去ろうとした。オレは慌てて彼女に最後の質問を投げかけた。何故、オレが必ず黄金の森に行くことになると、そう言い切れるのか。その根拠は何なのか。
「根拠なら、ある。貴方が、元プレイヤーであること。貴方が、転生の真実を知りたいと思っていること。――不思議そうな顔。でも、いずれ分かる。私が貴方のことをよく知っているのも、予言をしたのも、全て意味がある」
最後の質問に振り向いたツバキは、そう答えると再び背中を向けた。今度こそ立ち去るつもりらしい。止める理由もなく、見送る気でいたオレの耳に、彼女の呟きが風にのって届いた。あるいは、これも彼女の狙いなのかもしれない。
「そう、全ては『神の権能』に――」
もうすぐ、冬が終わる。春の嵐が、訪れる。
次回は6月1日に公開予定です。
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