表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/142

第117話 雪原の決戦

 竜の巣での戦いから数日が経った。怪我人は何人か復帰したものの、今や『砕氷の牙』は僅か十人ばかりとなった。入念な対策をしてもなお竜の抵抗は凄まじく、未だに怪我が完治しない者、戦意を失った者が大勢いる。


 それでもアイスドラゴンの追跡を続け、昨夜ついに、奴が決まった時間に必ず通る地点を見つけた。それは、北門を出てさらに北へ数キロ、小さな湖の銀板が月光を受けて輝く、大森林の中のちっぽけな雪原だった。


「さあ、着いたわ。相手もお待ちかねみたいね。エマニエルちゃん、例の魔法の準備を。ツバキちゃん、何か秘策があるなら、今ここで使ってちょうだい」


 湖の氷を噛み砕いて食べているアイスドラゴンから隠れて、キャロラインは『砕氷の牙』の面々に指示を出していく。エマニエルは杖を構えて目を閉じ、精神を集中させ始めた。ツバキは懐から何かを取り出すと、アイスドラゴン目がけてそれを投げつけた。


 ツバキが投げたそれは灰色のガラス玉で、アイスドラゴンの足元で砕け散った。すると、アイスドラゴンの左後ろ足が、徐々に灰色に変色していき、ぴたりと地面に固定された。足の自由を突然奪われた奴は、驚き慌てふためいた。


「全員、攻撃開始!」


 キャロラインの号令と同時に、全員がもがくアイスドラゴンに向かって走っていった。だが、約三十メートルはある相手との距離を、ツバキだけは瞬く間に、音もなく詰めてみせた。他はまだ数メートルしか進んでいないのにだ。


 ツバキはアイスドラゴンの背に飛び乗り、癒えかけていた両翼の傷を再び切り裂いていく。彼女の剣が舞う度に、竜の血が虚空に優美な曲線を描く。まるで踊っているみたいだ。オレはそんな場違いな感想を抱いた。


 でも、それならこっちだって負けていない。マキナが斧を手に美しい銀髪をたなびかせて、ツバキに次いでアイスドラゴンに肉薄した。そして、彼女は双眸を深紅に輝かせ、左前足に全力で斧を振り下ろした。


 斧と鱗がぶつかり、そして、何枚もの鱗が割れて飛び散った。アイスドラゴンが悲鳴を上げたが、マキナはさらに両足を踏みしめ、上半身の左右の捻りと腕のしなり、手首のスナップを使って、嵐のような攻撃を叩き込んだ。


 ツバキとは違う、荒々しくて力強い舞踏。これで両翼に続いて、左前足も使いものにならなくなった。


 されど、これだけで倒れてくれるほど、柔な相手ではない。アイスドラゴンは全身を使ってその場で激しく暴れた。それだけでマキナは大きく弾き飛ばされ、ツバキも空中に投げ出されて地面に落下した。


 強固な鱗と分厚い筋肉に覆われた巨体は、それだけで恐ろしい武器だ。ワイヤーで拘束されていた時も、ただ暴れるだけでこちらに小さくない被害を出したのだ。こうなってしまうと不用意に近付けない。


 しかし、前回とは違ってこの状況にも対策はしている。相手との距離、あと数メートルというところで立ち止まり、オレ達はアイスドラゴンを包囲した。あとは、その時が来るのを待つだけだ。剣と盾を持つオレの手に、無意識のうちに力が入った。


次回は5月18日に公開予定です。

ツイッターもよろしくお願いします!

https://twitter.com/nakamurayuta26


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ