第114話 凶兆の星屑
竜の巣での戦闘が終わってすぐに、『砕氷の牙』は拠点への帰還を選択した。怪我人が大勢出たのもそうだが、何よりもツバキとタイソンに、新たな疑惑が浮上したのが大きい。行きの倍近くの時間をかけて帰還した後、早々にツバキへの尋問が始まった。
「ねえ、ツバキちゃん。もう本当に、隠しごとはなしにしないかしら。さっきの戦いで見せたあの動き、どうしてああも的確な攻撃が出来たのかしら。予め知っておかないと出来ないわよね。――私達が知らなかった、弱点を」
「教えても、信じるとは、思わなかった、から。情報源が特殊、だから。下手に情報を与えて、混乱されるより、私とタイソンで倒した方が良いと、判断した。だから、弱点を教えなかった」
キャロラインが最後の言葉に圧を込めたのに、ツバキの反応はあっさりしていた。キャロラインは次に何をどう聞こうか考えていたが、その前にジャックが拳でテーブルを殴って、人差し指をツバキに突きつけた。
「ふざけんなよ。信じるか信じないかは、こっちが決めることだ。いいからその特殊な情報源とやらのことを、さっさと教えろ!」
「はあ。分かったから、あまり大きな声、出さないで。頭に響くから。――特殊な情報源、それは手にした者を狂気に陥れる、虹色の欠片。『凶兆の星屑』と、最近ではそう呼ばれている、みたいね」
ジャックの怒鳴り声に対しても、ツバキは少し顔をしかめただけだった。一方でキャロラインだが、ツバキの言葉を聞いてから、明らかに様子がおかしい。目が泳ぎ、顔がこわばり、口を固く結んでいた。
「ええと。さっき君が言っていたことで、気になった部分があるんだけど。君はまるで、ガマガエル君達のワイヤーがなくても、タイソンと二人だけでも、アイスドラゴンを倒せる。そうとも受け取れる言い方をしていたよね?」
「そうよ。私とタイソンだけでも、討伐は可能、だった。タイソンの馬鹿が、油断しただけ。わざわざ、『砕氷の牙』に協力したのも、メリッサの名誉挽回、それだけのため。おかげで彼女は信用を取り戻せた、みたいね」
ツバキの皮肉を込めた言い方に、オレは頭に血が上りそうになったが、何とか冷静さを保ちつつ、思考を巡らせた。何故か動揺しているキャロラインに代わって、ツバキに主導権を奪われないようにしなければ。
今更ではあるが、『星の円卓』というチームの本質が分かってきた。こいつらは、本当に自分勝手なんだ。自分はこの世界の中心であるという、プレイヤー感覚が根底に残っている。まるで、神様にでもなったつもりみたいだ。
「あそこまでダメージを、与えた後なら、私一人でも、討伐は可能。よろしければ、今から討伐、しに行きましょうか?」
ツバキの提案にオレ達は絶句した。こいつ、自分の立場が分かっているのか。それとも、分かっていてあえて、挑発の意味も込めての提案なのだろうか。少なくとも、協力する意思がないのは理解した。
「おい、ツバキ。何勝手に決めてんだ。俺をのけ者にしようとするたあ、良い度胸をしてるじゃねえか。なあ、おい?」
ツバキの自分勝手な言い分のせいで、尋問が進まなくなってきたところで突然、野戦病院にいるはずのタイソンが、尋問の場に押し入ってきた。彼の凶悪な笑みと血走った目から、さらなる波乱の予感がした。
次回は4月30日に公開予定です。
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