第112話 ごめん
アイスドラゴンは前よりもさらに大きく態勢を崩した。追撃のチャンスではある。だが、どこをどう攻めれば良いのか。生半可な攻撃は通用しないどころか、むしろこちらがダメージを負ってしまう。しかし、ガマガエル君達は早くも限界が近い。
「戦えねえならそこをどきな、腰抜け共。俺が片付けてやるよ!」
「脆い部分を、いくつか見つけた。そこを突けば、攻撃は通る。問題は、ない」
誰もが動こうにも動けずにいる中、タイソンは意気揚々と、ツバキは冷静沈着に、アイスドラゴンに接近していく。アイスドラゴンは二人を威嚇し、タイソンに噛みつこうとしたが、タイソンはアイスドラゴンの脳天に拳を振り下ろした。
すると、奇妙なことにアイスドラゴンは、たったそれだけで怯んで動きを止めた。それを見たタイソンはにやりと笑い、ツバキは小さく頷いた。二人のあの反応は何だ。まるで、アイスドラゴンがああなることを知っていて、それを確認したかのようだ。
対照的に二人は次の行動へと移る。タイソンが雄叫びを上げると、漆黒のオーラが彼の全身を覆った。ツバキは一瞬、姿勢を低くしたかと思ったら、天高く跳躍してアイスドラゴンの背に乗った。驚くべき行動だが、驚きはまだ続く。
タイソンは雄叫びを上げ続けながら、アイスドラゴンの脳天を殴る、殴る、殴る。ツバキは暴れる竜の背の上でも軽やかに動き、自由自在に剣を振るう。剣が振るわれる度に、竜の翼膜が切り裂かれていく。
やがて、竜の脳天に生えていた一際大きな鱗にヒビが入り、砕け散った。砕けた鱗の下にはさらに、鮮やかな青色の宝石のような鱗が生えていた。それを見たタイソンは、凶暴な笑みを浮かべ、その鱗に拳を振り下ろそうとした。
まさにその時だった。アイスドラゴンは目を見開き血走らせ、ガマガエル君達を引き倒し、ワイヤーが巻き付いたままの右前足の爪で、無防備なタイソンの胴体を引き裂いた。地面を派手に転がるタイソンに、オレは咄嗟に体が動いた。
オレの行動に我に返ったのか、他の面々も動き始めた。だが、アイスドラゴンが大きく口を開けて息を吸い、胸を膨らませたところで、何人かが恐怖で悲鳴を上げ、それにつられて全体が恐慌状態に陥ってしまった。
アイスドラゴンの狙いは、怪我で動けないタイソンだろう。だが、タイソンを守ろうにも、彼との距離が開き過ぎている。間に合うのは咄嗟に動いたオレだけだろう。脳裏にかつての約束が過る。――みんな、ごめん。でも、やらないといけないんだ。
オレはタイソンの側に駆け寄ると、彼を背後に盾を構え、アイスドラゴンと睨み合った。そして次の瞬間、奴の口元から漏れ出ていた強烈な冷気が、奴の必殺技、氷の息吹として吐き出された。
次回は4月20日に公開予定です。
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