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第107話 アイスドラゴン

 凍てつくような夜の中を、白い息を吐きながらオレは疾走する。今までとは比べ物にならないほどの強敵が、この先にいる。高揚感と恐怖心で鼓動が激しくなり、体が震える。目がちかちかする。東門に近付くほど、戦闘音がはっきりと聞こえてくる。


 緊張で足がもつれそうになってきた頃、ようやく東門に着いた。強烈な冷気によって東門はすでに凍りついていて、防壁の近くや見張り台には、氷像と化した犠牲者が何人もいる。その光景に戦慄していると、吹雪が吹き荒れて、一瞬だけ視界を白く染め上げられた。


 吹雪はすぐに止み、舞い上がった雪がはらはらと舞い落ちる。そして、澄み渡る満天の星空に、そいつはいた。わずかに青みがかった銀色の鱗が、月明かりを浴びて美しく輝いていた。そいつは徐々に高度を下げ、東門前のわずかな空地に着地すると、東門をじっと睨んだ。


 誰かが何かをしかけた時、嵐が起こる。今は嵐の前の静けさだ。防壁をよじ登ったオレが、アイスドラゴンの様子を見ながらそう考えていると、背後からガシャガシャという音が聞こえた。後ろを振り向くと、ガマガエル君がアイスドラゴンに向かって、大量の油を撒き始めた。


 アイスドラゴンが自分の体に降りかかるものに戸惑っていると、いつの間にか見張り台にいるメリッサが松明に火を点け、アイスドラゴンの足元へと投げた。すると、撒かれた油に引火して、アイスドラゴンは瞬く間に炎に包み込まれた。


 アイスドラゴンが苦悶の声を上げ、それでも戦意を失わず、咆哮と共に凍りついた東門へ突進した。東門は突進の衝撃に耐えられず、粉々に破壊された。見張り台のメリッサは直前に飛び下りようとしたが、間に合わず地面に落下してごろごろと転がった。


 防壁にしがみついていたオレは、この時、手が届きそうな距離でアイスドラゴンを見た。全体で大型トラックくらいの大きさはある。そんな怪物が悠々と拠点内に侵入していくのに、あまりの迫力に気圧されて身動き一つとれない。


 さっきの衝撃でガマガエル君は二体共、後ろにぶっ飛ばされて壊れてしまったらしく、この状況に何の反応も示さない。おまけに、アイスドラゴンの体の炎も消えてしまっていた。これでもうオレ達に、炎を使った攻撃手段はない。別の攻撃手段を探さないと。


 いや、それよりも今はメリッサだ。地面に落下してから、彼女はぴくりとも動かない。完全に気を失っている。オレは勇気を振り絞って防壁から下りて、彼女の元へ駆け寄った。途中、恐怖で足が震えて何度も転びかけた。


 メリッサの側に座って声をかけながら、彼女の容態を確認していると、遠くからいくつもの足音が聞こえてきた。増援だ。そうだ、エルフ族ならばメリッサの治療も、アイスドラゴンが苦手そうな炎を使った攻撃も、彼らの元素魔法ならば可能だ。


 駆けつけてくる増援の中にエルフ族がいるのを見て、オレは密かに歓喜した。だが、上から大きく息を吸う音が耳に入ってきた。ある予感と共にオレはすぐに上を見ると、アイスドラゴンが口を大きく開けていた。――次の瞬間、オレの意識は途切れた。


次回は3月16日に公開予定です。

ツイッターもよろしくお願いします!

https://twitter.com/nakamurayuta26


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