第106話 普通ではない力
一夜が明けて、事の真相が知れ渡った北東開拓拠点は、人という人が右へ左へ走り回る大騒動となった。細工したドワーフ、元素魔法を悪用したエルフ族、指示役の二人の番人、等々が速やかに捕縛されていったのは言うまでもない。
拠点内で確認された共犯者を全て捕縛した頃には、すっかり夜になってしまっていた。しかし、休む間もなく今度は尋問が始められた。次々とそれぞれ別の場所へ連れ出される共犯者達を横目に、オレ達『暁の至宝』も、ある二人への尋問をしていた。
「確認のために、もう一度聞くわね。貴方達は『星の円卓』が、その『すまほ』という物の実用性テストを兼ねて、アイスドラゴンの情報を、組織的に広めているのを知っているだけだった。間違いないわね?」
「だから、何度もそうだつってんだろ。俺とツバキはアーサーから、テストの進捗と結果を毎日報告しろ。それと、アイスドラゴンの件に直接ちょっかいをかけろ。しか言われてねえんだよ!」
「タイソンの、言う通り。私達は、ドワーフの細工も、エルフ族の離反も、聞かされて、いない。それに、番人の二人が『スマホ』を持っていたのも、使っていたのも、今日、初めて知った」
タイソンは怒りで顔を真っ赤にして机を殴った。対照的に、ツバキはいつもと変わらず冷静で淡々としている。キャロラインはニコニコしているが、圧力のかけ方は相当なものだ。そんな彼女に相対しても、タイソンとツバキは臆する様子はない。
三人が座る机を囲んで立つオレ達は、誰もが三人の威圧感に圧倒されていた。この状況の中でタイソンとツバキは、どうしてこうも堂々としていられるのか。何か切り札でもあるのか。オレが固唾を呑みながら考え込んでいると、キャロラインがふっと笑みを消した。
「そろそろ回りくどいのは止めにして、単刀直入にいきましょうか。貴方達が、『星の円卓』が作ったというこの『すまほ』。これは普通ではない力で作った物。そうよね?」
キャロラインが机の上に、長方形の薄い板を置いた。普通ではない力。そのワードにオレは心臓が跳ね上がった。背中に冷たい汗が流れる。何故、彼女は急にそんなことを言ったのか。不思議なことに、タイソンとツバキも、今のオレと似たような反応をしていた。
「犯行計画に関わっていないアリバイのある、ドワーフとエルフの皆さんに『すまほ』を調べてもらったわ。するとね、『こんな材料、こんな技術、全く知らない』ですって。――まるで、『永遠の炉火』みたいだと思わない?」
キャロラインの容赦ない追及に、二人は明らかにうろたえた。オレも自分の手にじんわりと汗がにじむのを感じた。何故、二人はオレと同じような反応をしているのか。タイソンは元プレイヤーで、おそらくはツバキもそうであろうことから、それが理由だろうか。
もしそうなら、普通ではない力とは、『スキル』の力である可能性が高い。二人の反応を見て何かの確信を得たのか、キャロラインがさらに追及を強めようとした、その時だった。誰かが慌ただしく尋問の場に乱入してきた。そいつは真っ青な顔でこう言い放った。
「アイスドラゴンだ。東の方角より、アイスドラゴンが接近中。尋問は一旦中断だ。今すぐ迎撃態勢に入るんだ。急げ!」
次回は3月9日に公開予定です。
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