第104話 暗闇の戦い
作戦を開始する前から、こうなる可能性は想定済みだから、浮き足立つことはなかった。だが、近付いて来る気配と、弓矢で狙ってきている気配が、想定よりもやや多い。接近してくる気配は四つだが、遠くの気配については、暗いのもあって数はよく分からない。
オレ達は全員、木の陰に身を隠して、飛んでくる矢をしのぎつつ、接近してくる敵と相対した。短剣と盾に皮鎧、それから黒い覆面姿の四人が、次々とオレ達に襲いかかった。オレは覆面戦士Aの攻撃を盾で受けると、覆面Aは短剣を弾かれて少しよろめいた。
そのまま追撃しようとしたが、飛んできた矢に妨害されてしまった。実際に一度、攻撃を受けてみて分かったが、こいつら一人一人の実力はそれほど高くはない。連携もちぐはぐだ。問題なのはこちらよりも数が多く、なおかつ包囲されているということだ。
覆面Bはマキナと、覆面CとDはキャロラインと交戦している。アンヌとジャックは、エマニエルとメリッサを矢から守るので精一杯だ。とにかく敵の弓使いが厄介だ。暗闇に隠れて矢を放ってくるので、動きにくくて仕方がない。オレは一歩後退して、ちらりとジャックと目を合わせた。
「ジャック、交代!」
オレの言葉にジャックは素早く反応した。オレがさらに後退したことによって、覆面Aは攻撃を外されてわずかに隙を見せた。そこでオレと入れ替わりで前に出たジャックが、すれ違いざまに覆面Aの太ももを切りつけた。
「エマニエル、弓使いだ。あいつらの矢を何とかしないと、どうにもならない。君の元素魔法でどうにか出来ないか!?」
「分かりました、やってみます。――『土の元素よ、我が声に応えよ。堅固なる障壁となりて、我が身を守れ』!」
エマニエルの元素魔法語による詠唱が終わると共に、覆面Bの背後に岩石の壁が地面からせり上がってきた。覆面Bは突然、背後に現れた岩石の壁にうろたえた。それを見たマキナは容赦なく、盾ごと覆面Bを叩き斬った。
岩石の壁に覆面Bが衝突し、血がペンキのように壁を汚した。それから一拍遅れてマキナに矢が飛んだが、岩石の壁で射線が制限されたそれを、マキナは容易に防いでみせた。彼女は止まることなく、そのままジャックに加勢した。
それから戦況は一変した。次々とせり上がる岩石の壁に援護の矢が遮られ、三人の覆面戦士は徐々に追い詰められていった。覆面Aはマキナの斧から逃げ回るしかなくなり、覆面CとDは二人がかりであるにも関わらず、キャロライン一人を相手に劣勢を強いられていた。
時々、岩石の壁と壁の間から、エマニエルを狙った矢が飛んできたが、それらは全てオレが盾で防いだ。アンヌがお返しにと、矢が飛んできた方向に矢を放つ。何度も矢をお返ししているうちに、その内の一本が命中したのか、暗闇の中から低くて短い悲鳴が聞こえた。
覆面Aもその間に逃げられなくなり、ついにマキナの斧に頭をかち割られた。それを見て動揺した覆面CとDは、その隙に一瞬でキャロラインに制圧された。大勢が決したと見るやいなや、敵の弓使いは一人残らず逃げたようで、気配はもう感じられない。
深夜の森に静寂が戻った。オレ達以外に残ったのは、襲撃者達の死体と岩石の壁、地面や木の幹にある無数の矢、そして、気を失っている哀れな二人の生き残りだけだった。
次回は2月23日に公開予定です。
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