第103話 証拠を探して
深夜ともなると、拠点の今の状況がどうであれ、人影は消え失せ、空気が張りつめるほどの静寂で満ちる。キャロラインと合流してから、オレ達はこの時刻になるまで、息を潜めて待っていた。
「もうそろそろ頃合いだな。念のためにおさらいしておくぞ。まずは誰にも見つからないように北門の近くまで移動し、次にエマニエルの魔法で姿を消して北門を突破する」
ジャックがひそひそと作戦の内容を口にする。『暁の至宝』の面々、それとメリッサは、何も言わずに耳を傾けている。ちらちらと一瞬だけ周囲を警戒した後、ジャックは作戦のおさらいを続けた。
「無事に目的の物を回収するためには、北門を突破した後、痕跡がまだ残っているうちに、目的の物を探し出す必要がある。これに関しては俺の得意分野だから、俺に任せてくれ」
オレはジャックの自信に満ちた言葉を聞いて、そっとキャロラインの顔を見てみた。彼女は一見すると無表情だが、目は喜んでいた。静かだけれど温かい、子供の成長を見守る、母親の目だった。
作戦のおさらいが終わると、すぐに決行へと移った。風のように早く、凪のように静かに、オレ達は北門へと向かい、あと二十メートルほどのところで立ち止まった。物陰に隠れて、北門の見張り台を見上げると、やる気のなさそうな男が二人いる。
「『闇の元素よ。我が声に応えよ。影の衣となりて、我を影の世界へ招き入れよ』――」
エマニエルの元素魔法が、オレ達の姿を覆い隠していく。作戦が次の段階へ移行したのだ。月明かりによって生じた物陰から物陰へ、音もなく移動していく。物陰から決して出てはならない。影の衣が光に裂かれ、姿が見えるようになってしまうから。
ゆっくりと時間をかけて、ようやく閉ざされた扉の前まで来た。すると、キャロラインが瞬く間に、まるで猫のように軽やかかつしなやかに梯子を登り、見張り台にいる二人の男を気絶させて戻ってきた。その間に、ジャックは閉ざされた扉を、ギリギリ一人通れる程度に開けていた。
無事に北門を突破出来たが、ここまであっさりと北門の突破が出来たのは訳がある。人の出入りが多い南門、魔物の襲撃が相次ぐ西門、ドラゴン族の脅威に最も近い東門。これらの場所と違って、北門は差し迫った問題が特にないため、警戒が緩みやすいからだ。
北門を突破して森の茂みに身を隠しても、まだ心臓が激しく暴れている。だが、休んでいる暇はない。時間が経つほど痕跡が消えていき、目的の物を見つけにくくなる。それに、見張り役を気絶させたので、北門が無防備になっている上、黒幕が北門の異変に気付く可能性もある。
闇夜の森の中を、月明かりと松明を頼りに、五感を研ぎ澄まして進んで行く。ジャックは地面を這い、木々をじっくりと観察し、オレ達を先導する。オレ達には見えないものが、彼にははっきりと見えているのだろう。彼は一瞬も迷うことなく、次々に手がかりを辿っていく。
そして、寒さと疲労で、手足の指の感覚がほとんどなくなってきた頃、ついにジャックが立ち止まった。彼の視線の先には、雪に埋もれかけた二体のガマガエル君が、ボロボロの状態で地面に横たわっていた。それを見たメリッサは、二体のガマガエル君の元へ駆け寄ろうとした。
しかし、メリッサがガマガエル君の側に座り込んだ直後、彼女に向かって一本の矢が飛んだ。ジャックが彼女の服を引っ張って、辛うじて難を逃れたが、周囲から突き刺さるような殺気を感じ、オレ達は急いで戦闘態勢に入ることになった。
次回は2月16日に公開予定です。
ツイッターもよろしくお願いします!
https://twitter.com/nakamurayuta26




