第102話 メリッサの覚悟
オレが指令室に着いた時、先に向かっていたはずのキャロラインがおらず、部屋の片隅で膝を抱えて俯くメリッサだけがいた。部屋の中の散らかり具合も、前に訪れた時よりも酷くなっていた。
「メリッサさん、突然押しかけてきて申し訳ありません。ただ、今すぐ確認しないといけないことがあるんです。お辛い気持ちは理解していますが、お願いします!」
「あはは。さっきキャロラインさんが、君と全く同じことを言っていたよ。うん、大丈夫。心配しないで。君が知りたいのは、故障した私のガマガエル君達が、今どこにあるのかだよね?」
オレの不躾な質問に、メリッサは弱々しくも笑いながら応じてくれた。先に指令室に向かった時にはもう、キャロラインはオレと同じことを考えていたのか。内心驚きつつも、オレはメリッサの話に耳を傾ける。
「一昨日の夜、私はたくさんの犠牲を出したことで、当然だけど責任を追及された。中には私を殺そうとする人までいたよ。そりゃそうだよ。私のミスで仲間が死んだんだから。しかも次の日には、エルフ族がいきなりやってきたもんだから、ガマガエル君どころじゃなくなってさ」
メリッサは額に手を当て、苦々しい顔をした。
「エルフ族の増援との会議が終わって、冷静に考えられる時間が出来た。そこで私はガマガエル君の故障の原因を考えたけど、分からなかった。あんなことが起きないよう、日頃からマメにチェックしていたから。だから、ガマガエル君を回収して調べようとした。――けど、なかったんだ」
オレはメリッサが悔しそうに下唇を嚙んだのを見て、事態が恐れていた通りに、悪い方向へ進んでいるのを悟った。同時に、オレの最悪な仮定も現実味を帯びてきた。まとめ役の座を狙う何者かが、メリッサを陥れようとしている。という仮定がだ。
「戦いがあった場所に放置しちゃってたから、今日の朝早くに回収しに行ったんだけど、その時にはもうガマガエル君はいなかった。昨日の夕方まではいたって証言があるから、何かあったとしたら、昨日の夜にってことになる」
邪心を抱く何者かが、陰謀の証拠になる物を隠滅する。恐れていた通りに事態が進んでいる以上、もはや一刻の猶予もない。オレは急いで指令室を出ようとしたが、メリッサが服の袖を掴んで引き止めてきた。
「待って、ガマガエル君を探すなら、私も行くよ。私だけじゃ見つけられなかったけど、アリバイがあって信頼出来る君となら、あるいは何とかなるかもしれない」
メリッサが真っすぐオレの顔を見てきた。彼女の目には強い覚悟が宿っている。自分の失態で犠牲者を出してしまったのか、それとも誰かの企みの結果なのか。真相が何であったとしても、全て受け止めるという覚悟が。
ならば、彼女の申し出を断る理由はない。オレは何も言わず右手を差し出すと、メリッサはその手を握って立ち上がった。まずはキャロラインと合流しよう。あの聡明なリーダーならば、今頃、何かしらの手立てを考えてくれているはずだ。
次回は2月9日に公開予定です。
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