第101話 陰謀の気配
アンカラッドを出発してから三日目の夕暮れ時、『砕氷の牙』の面々は疲労で足を引きずりながら、北東開拓拠点に辿り着いた。気の毒なことに馬がこの厳しい寒さで凍死してしまったので、馬車を放棄して途中から徒歩で移動していたのだ。
もう少しのところまで頑張ってくれて、ありがとう。拠点の倉庫へ運ばれる、自然冷凍された馬肉を見ながら、感謝の念を捧げた。
オレ達が離れている間に、拠点でも新たな問題が発生したようだ。まとめ役がどうの、エルフ族がどうのと、どこもかしこも騒がしい。空気が悪い。見ただけで憂鬱になる骨壺も、新しいものがかなりの数作られていた。
キャロラインは翌朝までの休養を命じ、急ぎ足で指令室へと向かった。残された『砕氷の牙』の面々は、戸惑いながらも徐々に散っていき、思い思いに過ごし始めた。ただ、オレはこれからどうするか決めかねていた。
途方にくれていると、以前に拠点で知り合った男が、大きな荷物を背負って歩いているのを目にした。こういう時こそ、情報収集をするべし。オレはここでジャックの教えを思い出し、その男に色々と聞いてみることにした。
「久し振り。拠点の空気がかなり悪いみたいだけど、オレがいない間に何があったんだ?」
「ああ、実は一昨日の夜に魔物共の襲撃があったんだ。ガマガエル何とかいう機械兵がその戦いの途中で故障して、動かなくなって、そのせいで大勢の犠牲者が出てな。お前達より一日早く来たエルフ族の増援が、火を多用する戦い方に苦言を呈したのもあって、まとめ役の交代があるかもってなっているんだ」
男の話の内容にオレは驚きを隠せなかった。メリッサの機械兵が二体共、肝心な時に故障して動かなくなるなんて、運が悪過ぎる。いや、タイミングが良過ぎる。彼女が大事な時にそんなミスを犯すだろうか。彼女は短い間とはいえ、ドワーフ族のグスタフから技術を学んでいるのだから。
「今のまとめ役の責任も大きいとは思うけど、あの機械兵に頼ってばかりだった俺達にも非はある。ただ、エルフ族の奴らがこれから何を言うかだな。場合によっては、戦い方を大きく変える必要がある」
そう、エルフ族の増援もそうだ。エルフ族は森を愛し、森と共に生きる種族だ。森の中にある拠点で火を使った戦術など、とても看過出来ないだろう。機械兵の件があってからすぐに彼らが来たのは、やはり運が悪過ぎるし、タイミングが良過ぎる。
アイスドラゴンの情報が思っていたよりも早く広まり、新戦力があまり集まらなかったのも、こうなると響いてくる。メリッサが名誉挽回しようにも、戦力が足りなければどうにもならないからだ。
一連のあらゆる出来事が、メリッサを追い詰めるかのように、全てタイミング良く動いている。まるで誰かが、メリッサをまとめ役の座から引きずり下ろすために、一手一手追い詰めにきているように思えるのは、オレの気のせいだろうか。
男に礼を言うと、彼は西門の方へ走り去っていった。オレは腕を組み、視線を地面に落とした。仮にこれが誰かの陰謀だとして、その誰かは次に何をしようとするか。そんなこと、考えればすぐに分かる。オレはすぐに行動を開始した。向かう場所は、指令室だ。
次回は2月2日に公開予定です。
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