第二十八章 勇者と封じられた感情
一番古い記憶は、錆び付いた牢の中から見える景色だった。自分を覗き込み笑う、大人の笑顔。欲に塗れた笑顔だった。
美しい容姿で買われた。お前自身に価値を見出してのことではない。それは、酔った劇団の団長から幾度も幾度も聞いていた。
要らない子だと教え込まれて育った。親にも求められず捨てられた、憐れな子供。綺麗なばかりで何もできない、無力な子。
折角買ったのに役に立たないと何度も罵られた。頭が良い訳でも運動が出来る訳でもない自分の価値は見た目だけだと蔑まれた。劇団という場所で必要不可欠な演技すらできないと罵倒された。
辛うじて認められたのは竪琴の演奏。演劇のための音楽を奏でる仕事が、唯一の仕事だった。
けれど。
「肝心なところでミスしやがって!」
一音でも間違えれば、公演が終わった後に折檻された。何度も何度も鞭を打たれ、傷ができても意識を失っても、許されることはなかった。もう二度と間違えないと何度も何度も唱えて、やっと解放されたときには専ら夜だった。
初めの頃は泣いたり怒ったりもしていた。けれどその度に怒鳴られ、食事を抜かれ、暴力を振るわれた。
「泣くな、鬱陶しい。此処に置いていくぞ!!」
まだ幼い頃、泣きじゃくる自分に劇団の団長が忌々しげに言ったのだ。その言葉に、ロレンスは何より怯えた。おいていかないで、一人にしないで、と泣いて縋った。
そんな幼い手を振り払って、男は言った。
「役立たずのお前にできる唯一のことを教えてやる」
その言葉に、ロレンスは固まった。自分に、出来ることがある。まるで希望を見つけたように自分を見つめる二色の瞳を見つめて、男は口を開いた。
「ずっと笑っていろ。笑って、歌うこと、それがお前に出来る唯一のことだ」
そう言って、男は笑った。
嘲りを含んだ、言葉。それを聞いてロレンスは大きく目を見開いた。そして、問いかけたのだ。
「そうしていたら、ボクは捨てられない……?」
縋るような視線と言葉。それに気付いていたのか否か、今となっては確かめようもないが……
「あぁだろうさ」
面倒臭そうに男は言った。その言葉にロレンスは何度も瞬いた。鮮やかな海色と薔薇色の瞳を瞬かせ、そして。
「わかった、ずっと笑っているよ」
そうすれば嫌われないのなら、傍に置いてもらえるのなら。そう言って、彼は笑った。明るく無邪気な笑顔を浮かべて見せた。目の端に残っていた涙が一粒、零れ落ちた。
その様を見て、男は少し驚いた顔をした。それから満足そうに笑って、彼は口角を上げた。
「ふん、そうして従順にしていれば良いんだ」
きっと、ただの気まぐれだっただろう。自分の言葉に素直に頷いた愚かな子供を見るのが楽しかったのかもしれない。
ロレンスはぐしゃりと乱暴に、頭を撫でられた。その記憶が、ロレンスの心に強く強く、焼き付いた。
***
「ボクに、居場所をくれた。こんなに何もできないボクに。頭を撫でてさえくれたんだ。その人が、ボクに言った。笑っていろって、それがボクにできる唯一だって」
辛い辛い記憶のはずなのに、まるで幸福な記憶を語るようにそう言って、彼は微笑んだ。
不要だと、役立たずだと言われて育った。そんな彼に残った幸福の記憶は、たった一度頭を撫でられたという記憶。仲間としてではなく道具として使われていたという自覚もあるのに、逃げないために枷を付けられていたのだという自覚もあったのに、彼は劇団員たちに感謝していた。居場所をくれた人たちなのだとそう慕っていた。
そんな彼のことを仲間たちは痛々しいと思っていた。しかしその思考を、在り方を否定することもできなくて、此処までただ傍に寄り添ってきた。
けれど、こんなことになるのなら、彼が此処まで思い詰めているのなら……何故もっと早く、もっと多くの言葉を交わせなかったのだろうと、後悔した。もしもっと言葉を交わせていたのなら、この結末は避けられたのではないか。そう思わずにはいられなかった。
「だから、ボクは泣かないよ。怒らないよ。最期まで笑って逝くよ。……だけど」
ふ、と息を吐いたロレンスは鎖で繋がれたままに仲間達の方へ視線を向けた。そして申し訳なさそうに言う。
「ごめんねオズ、キミの師匠のことを歌うと約束したばかりなのに。リオの旅路も見届けたかったのに」
それが、それだけが心残りだ。仲間達を見つめながらそう言って、ロレンスは微笑んだ。
こんな状況になってなお、彼が口にするのは仲間のことばかりだ。歌い継ぐと話したオズワルドの師のことと、共に行くといった勇者への謝罪。もっというべきことは、言いたいことはあるはずなのに。
最期だと決めつけて、逃れようともしないその態度に、リオニス達は動けずにいた。彼にかけるべき言葉が、わからない。悲しみも苦しみも全て封じ込め、感じないようにしている彼。笑っていることが、それが自分に唯一出来ることだと信じて育った彼にどんな言葉をかければ届くのか、全くわからない。生半な言葉を投げるだけでは、きっと届かない。綺麗な言葉もきっと届かない。それくらい、彼が居た地獄は深いのだ。たった一度頭を撫でられた、その記憶が幸福の象徴のように残ってしまうほどに。
「……言いたいことは、それだけか」
言葉に迷う仲間達の中で、真っ先に口を開いたのは最年少の少年だった。ロレンスの魔法で地面に座り込んだまま、それでも顔を上げた。ネモフィラの瞳で真っ直ぐに、鎖に繋がれたままの仲間を見つめ、彼は言う。言いたいことはそれだけなのか、と。
不思議そうに、ロレンスは首を傾げた後、頷いた。それを見つめ、シュライクはネモフィラの瞳をすぅっと細めた。
「もう良い? 生贄になった方が良い? それが皆のため? 心の底からそう思ってるなら、なんで」
ぐっと拳を握りしめたシュライクは、ロレンスの隣を指差し、叫ぶ。
「お前の傍に居るその村人も、武器を持てずにいるんだよ!?」
もし、生贄になって死んだ方がいいと心から思っているのなら、近くにいる村人の手には武器があるはずだ。そのまま斬り殺してくれと願えば、誰も止めることなく目的を達成できる。ロレンスの仲間は愚か、村人たちも動くことが出来ないこの状況だ。誰も邪魔などできないだろう。それなのに、そうなっていないのは……
「お前の本心は、違うんじゃないのか?」
そう言いながら、ふらふらと、シュライクは立ち上がる。まだロレンスの魔法の効力は残っているというのに。それを見て、橄欖石の瞳の治癒術師は、大きく目を見開いた。
「無茶ですシュライク! ロレンスの魔法は、精神に作用するタイプの魔法ですから……!」
夢への介入ほどではないとは言え、それを強引に破るのは心身への負担が大きい。危険だ、とユスティニアは叫ぶ。
「危険でも、なんでも、やるっきゃないだろ……!」
シュライクは諦めようとしない。鮮やかなネモフィラ色の瞳に強い意志の光を灯して、真っ直ぐにロレンスを見つめたまま、彼の魔法に抗って立ちあがろうとする。強風にぶつかってもなお真っ直ぐに飛ぶ鳥のように。
その様子を見て、ロレンスは大きく目を見開いた。そして、くしゃりと顔を歪める。
「っ、やめてよ! もう良い、ボクは……ボクは、此処で死んだ方が良いんだ!」
悲痛な声が、ロレンスの口から上がる。今まで聞いたことがないような、感情の灯った声だった。
「気づいたんだよ! ボクの所為で、あの劇団は駄目になったんだ、みんな、みんな死んでしまった!」
泣き叫ぶように、彼は言う。自分の所為だ、と。それを聞いて、仲間達は大きく目を見開いた。
「何で、お前の所為だってことになるんだよ! あれは、あの馬車を襲った魔族の……」
あれはどう考えても悲惨な事故だ。魔族に襲われた劇団が壊滅した。逃げ惑う劇団員を残虐な魔族が殺し、動くことが出来なかったロレンスが生き残った。それだけの、不幸な事故だと仲間達は言う。
しかしその言葉にロレンスは首を振った。
「ボクもそう思ってた、仕方ないことだったって。でも」
ひゅ、と細く息を漏らした彼は、震える声で言葉を繋げた。
「……隠れていることしか出来なかった。肝心な時にボクは歌えなかった。ボクが歌えば、もしかしたらみんな、死ななくて済んだかもしれない。それなのに」
思い出すのは、あの日。全てが終わって、始まったあの日のこと。
いつものように馬車の奥に繋がれていた。がたん、と不意に揺れた馬車。響く悲鳴と怒号。ばたばたと逃げ出していく劇団員たち。悲鳴と、笑い声と、何かを踏み潰すような濡れた音、乾いた音……――
異常が起きているのはすぐに分かった。何があったの、と呼びかけたかった。けれど、それは出来なかったのだとロレンスは言う。
表情こそ崩さなかった。笑っていることが自分に出来る唯一と信じていたから。けれど……心の奥底では……――
「怖くて、体が動かなかった。声も出せなかった。
あの時ボクが声を出せば、囮にくらいはなったかもしれない。歌えていれば、竪琴を奏でられていれば……そう思わない日が、ないんだよ」
そう言ったロレンスは蹲った。そのまま、震える声で彼は想いを吐き出す。
「知りたくなかった、ボクの歌に、魔力に、こんな力があったなんて。知らなければ、皆を助けられたかもしれないなんて考えないで済んだのに……!」
それは悲痛な叫びだった。
あの劇団に居た頃は、自分には何もできないと思っていた。魔力は拡散し、使い物にならないと言われていた。しかしリオニスたちに出会ってその魔力が、魔法が、役に立つのだと理解した。仲間達の役に立てる。それは純粋に嬉しかったが……同時に、理解してしまったのだ。そんな力があるのなら、あの時"劇団員"を助けられたのではないか、と。何もできず、彼らを見殺しにしてしまったのは自分だったのではないか、と。
知りたくなかった、理解したくなかった。ロレンスはそう言って肩を震わせる。それでも、涙は零さなかった。笑顔はすっかり歪んでいたけれど、涙だけは零すまいとしているかのようだった。
「だからあの時、あんなことを言ったのか」
オズワルドはそう呟いた。師の記憶を取り戻したいといった自分にロレンスが言った言葉を思い出しながら。
―― 忘れている方が、きっと楽だと思ってしまうから。
そう言って彼は、微笑んでいた。
知らずにいる方が幸福なことがあると、ロレンスも理解していたのだ。そしてずっとずっと、悩んでいたのだ。"笑っていなければならない"と言う呪いのような言葉に縛られて、泣くことも辛いと訴えることもしなかっただけで。
「でも、あの時はそれを知らなくて、仕方なかった……そうでしょう、ロレンス」
ユスティニアは顔を歪めながら、ロレンスに呼びかける。
後悔する気持ちはわかる。あの時ああしていたら、と言う想いは誰しもが一度は抱くものだ。しかし、そうして悔やんだところで現実は変わらない。だから、とユスティニアは彼を宥めようとした。
しかしその言葉にロレンスはゆっくりと、首を振った。
「終わったことは変えられない、わかるよ、でもだからこそ……未来が、怖いんだよ」
ぎゅ、と拳を握り、彼は言葉を続けた。
「あの時も、歌えれば皆を助けられたかもしれなかったのに、大変なことが起きているとわかっていたのに、声が出なかったんだ。竪琴も弾けなかった。
こんな役立たずは、キミたちの傍にはいられない。もし皆を、あの時のように失うことがあったら、ボクは……ボクを赦せない」
居場所を失くし、仲間を亡くした自分を仲間と呼んでくれた。居場所をくれて、価値を与えてくれた。そんな仲間達が大好きだ。だからこそ、失うことを考えると気が狂いそうになる。またあの時のように、危機的な状況に陥って、自分が何もできなかったとしたら……それが恐ろしくて仕方がないのだと、ロレンスは言った。そして、自分の魔法で動けずにいる村人たちに視線を向けて、微笑みながら言葉を紡ぐ。
「こんなボクでも役に立つなら、此処で贄になった方がきっと良いんだよ」
そんな彼の言葉に、彼を祭壇に繋いだ村人たちは目を伏せた。こんな状況でもなお、仲間を、そしてこんなにも残酷な手段を取ろうとした自分たちを想う楽士の言葉はあまりに重く、例え彼の魔法がなくとも動ける人間はきっと誰一人としていないだろう。村人たちはそう思った。
それはリオニス達も同じこと。一つ息を吐き出したリオニスは顔を上げて、ロレンスを見つめた。言葉をかけようと口を開きかけるが、それより先にロレンスが言った。
「やめてよ、リオ。笑っていられなくなっちゃうから」
自分は笑っていなければいけないのに、笑顔を崩してはいけないのに……笑顔を保てなくなってしまいそうだから。……だから。
―― そんなに優しい顔で、優しい言葉をかけないで。
そんな言葉が、彼の感情の全てだとリオニスは思った。
「笑わなくていい」
きっぱりと、そう言った。武器は握ることが出来ないまま、立ち上がることもできないまま、それでも真っ直ぐに、自分の行動を阻んでいる楽士を見つめて、リオニスは言う。
「笑っていれば、泣かなければ嫌われない? そんな言葉は、まやかしだ」
ロレンスが、大きく目を見開く。そしてまた、顔を歪めた。まるで迷子になった子供のように、頼りない表情。今まで信じてきた言葉を全て否定したのだ。当然の反応だろう。そう思いながら、リオニスは言葉を続ける。
「お前が泣いても、怒っても、俺たちはお前を嫌わない。お前はお前のために生きて良いんだよ、ロレンス。笑うのも怒るのも泣くのも、お前自身の意思であっていいんだよ」
当たり前のことだ。けれど、その当たり前に触れられないまま育った彼には、しっかり伝えなければならない。そう思いながらリオニスは大切な仲間を見つめて、言葉を紡ぐ。感情は、心は、誰のものでもないのだ、と。
そんなリオニスの言葉にロレンスは瞳を揺らす。呼吸が浅く乱れた。
そんなこと、誰も言ってくれなかった。だって、自分は。
「要らない、存在なのに」
ポツリと呟いたロレンスの顔が悲痛に歪む。必死に涙を堪える彼を見つめて、リオニスはゆっくりとした声で、いった。
「そんな訳がない。お前は俺たちの大切な仲間だ」
そしてふわりと、微笑んで見せる。否定され続けて育った彼が、自分の言葉を信じられるように。
ロレンスはゆっくりと瞬きながら口を閉ざした。ゆらゆらと、美しい瞳が揺れる。
優しい仲間の、優しい言葉を受け取っても良いのか。信じても良いのか。……傍にいたいと、望んでも良いのか。
そんな彼の心情を読んだかのように、シュライクが叫んだ。
「お前が歌えないときは、俺たちが守ってやる! そう簡単に壊れる居場所なんかじゃねぇよ、俺たちは! だから……」
すう、と息を吸った彼は良く響く声で……
「だから、望め! 傍に居たいって、一緒にいきたいって……死にたくないって望めよ!!」
咆えるようにそう言って、シュライクはロレンスを見つめる。曇りのない真っ直ぐな瞳で。
ロレンスは静かに仲間たちを、見つめる。穏やかに微笑んで頷く者。普段と変わらない表情で見つめ返す者。泣きそうな顔で微笑む者。真剣な顔をしている者……そんな仲間たちの姿を見つめていた二色の瞳が、涙に濡れた。
仲間たちに手を伸ばして、彼は震える唇を開く。
「……っ、皆と、一緒に居たい……死ぬのは、怖いよ」
掠れた、震える声。ずっとずっと押し殺してきた感情が溢れ出したかのように、ロレンスは顔を歪める。
怖い。そう一度言葉にしてしまえば、体が震えた。ずっと抑え込んできた感情だった。
こんな所に一人で繋がれたのも怖かった。仲間達にもう二度と会えないのではないかと不安だった。あの時、劇団の仲間達を救えなかったのが悲しくて、悔しかった。また、あの時のように仲間を失うのが何よりも、恐ろしかった。
つっと、白い頬を涙が伝って落ちた。それを見て、仲間たちは笑って、頷く。
「任せろ!」
「任せてください」
そんな仲間達の声を聞いて、ロレンスはゆっくりと瞬いた後、柔らかく笑った。穏やかで幸福そうな、本当の笑顔だ。
ふ、と体が軽くなるのを感じて、シュライクははっとする。同時に、ロレンスが祭壇の上に倒れ込んだ。魔法をかけていた本人が意識を無くしたために魔法が解けたようだった。
自由に動けるようになる。それは村人たちも同じだ。素早く立ち上がるシュライクを見て、村人たちは慌てて武器を取ろうとした。もう今更しでかしたことを無かったことにはできない。ならばいっそ目的を完遂しよう、そう思ったのかもしれない。
ロレンスの傍にいた男が武器を取ろうとする。意識を失くしたロレンスを贄として捧げるのは簡単だろう。
―― しかし。
「そこから動くな」
低く唸るような声に、村人たちはびくりと体を強張らせた。もうロレンスの魔法は効いていない。シュライクが魔法を使った訳でもない。しかしまるで魔法をかけられたように、体が動かなかった。
声の主……シュライクはざり、と強く地面を踏みしめながら、口を開いた。
「ロレンスに指一本でも触れてみろ。旋風より速く、その人間の腕を吹っ飛ばす」
ギラギラと燃える猛禽のような瞳が、残酷で弱い村人たちを見据える。武器など持たない小柄な少年。しかしその迫力は、威圧感は、まるで腹を空かせた野生の獣を前にしているかのようだった。
怯んだように動きを止める村人たちを見つめて、リオニスも口を開く。
「それは俺たちも同じだ」
すらり、と剣を抜いた彼を見て、村人たちは動揺した顔をした。
「馬鹿な、私たちは、ただ……」
ただ村を守りたいだけ。ろくに戦う手段を持たないから、だから"最後の手段"に出ただけの、そんな自分たちを手にかけるつもりなのかと、彼らは言う。
それを聞いたリオニスは緩く口角を上げた。
「確かに人殺しの勇者なんて、とんでもないだろうな。でも……仲間を傷付けられて何ともない顔をしていられるようなら、それはそれで勇者失格だろ」
そう言いながら、リオニスは剣を構える。ロレンスが傷付けられるようなことがあれば迷わず切り掛かることができるように。
そんな彼らの様子を見て、ユスティニアは苦笑を漏らす。
「リオニス、少し落ち着いてください。……オズワルドも」
隣にいる魔法使いにも忘れずにユスティニアは声をかける。オズワルドは少しだけ眉を寄せ、低い声で言った。
「……落ち着いているつもりだが」
いつも通りだ、というオズワルド。ユスティニアはそんな彼をちらりと見て、溜息をひとつ。
「到底そうは見えませんよ」
ばちばちと爆ぜる炎。それは他でもない、オズワルドが生み出したもの。無意識に爆ぜるそれはきっと、ロレンスが傷付けられるようなことがあれば、その人間に向かって飛んでいくことだろう。表情が薄く読みづらいオズワルドだが、その実かなり感情豊かなタイプであることは、ユスティニアもよく知っている。
そんな仲間達の様子を見て、リオニスはふっと笑う。そして、険しい表情で村人たちを見据えて、凛とした声で言い放つ。
「魔王は必ず俺たちが何とかする。だからこんな馬鹿な真似はもう二度としないと誓え」
その言葉に村人たちは項垂れて、武器を取り落とす。金属の落ちる間の抜けた音が、静かな森の奥に響いた。




